3・終・帰途のこと。 ページ17
初めて肌を重ねた日の、帰り道。どこか夢見心地のような足取りの李里の手をしっかり握って、真一郎はどうすればこの手を離さないでいられるだろうとその事ばかりを考えていた。じんわり温かい、小さな掌。今繋いでいる方のそれとは逆の薬指に枷を嵌めたい。心臓に繋がると言い伝えられる指に、銀色の環を。
「オマエが学校を出て」
何とはなしに呟いた言葉。李里が立ち止まって、そっと見上げてきた。
「そんで、色々落ち着いたらさ」
前に回り込んで、跪く。丁度街灯の下だったそこは、スポットライトを浴びる舞台上のようだった。
「オレと、結婚してくれませんか」
世の女性が憧れるようなホテルの上階のレストランでのやり取りでもなければ、ムーディーな夜景を背景にしてのそれでもない。殺風景な、ありふれた街中の景色でのプロポーズ。でも、李里は喜色を満面にした。愛する人が自分との結婚を考えてくれていると分かったのだ。無論、返事は肯定。
「…もう、あなたとの未来以外考えられない」
「可愛いこと言うなよ…今すぐ結婚したくなるじゃねぇか…」
可愛いのはそっちだと思いながら、シャンプーの匂いがする頭を抱き締めた。きっと、逸る心拍はばれてしまっている。
「幸せすぎて死んじゃいそう」
「死ぬなよ、オレと結婚するんだろ？」
「うん、絶対目移りなんてさせない。死んでも離れない」
こんなのは重くて嫌？と茶化すように問えば、ぎらつくようでそれでいて爽やかな笑みが向けられる。
「嫌なわけないだろ。寧ろ最高だわ」
頬に添えられた掌を掴んで、左手の薬指の根元に甘噛みくらいの強さで噛み付いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2023年11月6日 15時
