if 白虎と初めの黒い龍 (ページ15)

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3・白虎、返り討ちに合う（R-15）ページ15

胸倉を掴んだような姿勢での、我儘。呆然としていた真一郎の顔つきに何か凶暴とも言える影が宿った。
「…そんな事言ってると」
がっ、と開かれた口には唾液に濡れた犬歯が鋭く見えている。今、李里の目の前に居るのは、牙を噛み鳴らす餓えた黒い龍だ。
「もう止まれねぇぞ(喰っちまうぞ)」
くちづけで返事をすれば、強く彼の匂いがするベッドに性急に運ばれて柔らかく押し倒された。

熱い微風が規則的に李里の素肌にかかる。嗚呼、今からこの美しい獣に優しく喰い散らかされるのだと実感を持って諧謔じみた事を思った。頸筋に噛みつかれ、沢山の“喰われた”痕跡が残される。この初めては、嬉し恥ずかしという言葉では軽すぎる。足りない。もっと、熱くて重たい、ぎちぎちと縛られているのにそれが快いような感情。精巧な機能美を持つ硬質な絡繰の機械を弄くり回す指先が、皮下に薄く脂肪の層を持つ柔らかい頬を、頸を、デコルテを、胸元を滑っていく。その落差に頭がくらくらした。指先が辿った場所を唇がなぞっていく最中、ふと、熱い雫が落ちる。汗とは違う熱さ。それは赤かった。
「…鼻血」
赤珊瑚の珠のように丸く落ちた血液。同じくらい興奮してくれているのだと分かって、それから、鼻の下を流れるそれを荒っぽく拳で拭う恋人に胸がときめく。それすら見透かすように黒い龍が笑って牙を剥いた。

じんわり痺れるような下腹の痛みと、汗で張り付いた前髪。そして、抱きすくめてくる、逞しい裸の躰。初めてだったけれど、何度か交わったことを途切れ途切れにうっすら覚えている。真昼の真っ白だった光は、夕方に差し掛かった淡い蜂蜜の色をしている。
「ゴメンな。大丈夫か？」
「…大丈夫。私から誘ったんですから。真一郎さんこそ、私、背中に爪を立てたりしたでしょう」
「あー、ちょっとヒリヒリするけどオマエが付けた痕だから大丈夫」
素肌同士が擦れ合って気持ちいい。先程までの事のような激烈な快でなく、緩やかに揺蕩う心地。大切にされているな、と愛が染み込んでくるような触れ合いにまどろみが歩み寄ってくる。
「シャワー浴びるか。オレもオマエも汗まみれだし」
横抱きにされて、風呂場まで運ばれる。揺れで鈍い疼きが淡く明滅した気がしたが、それさえもなんだか快い気怠さに感じた。