2・閑話・虎、心底から赦される ページ12
エマとヒナ、李里が泊まりの女子会を開き始めた頃、一虎は佐野家の前で立ち尽くしていた。長男を殺しかけ、次男を殺そうとして、友人も殺そうとして、その途中で血の繋がった片割れを刺してしまった記憶。来いよ、といつもの清々しい笑顔で強引に誘ってきたマイキーに嬉しくなって来てしまったけれど、罪の意識が今さらになってジリジリ責め立ててくる。そうしてじっと佇んでいると、殺しかけたマイキーの兄がこちらに気づいて歩み寄ってきた。
「カズトラ、体調でも悪ぃのか？」
「えっ、や、違う…」
「良かった！じゃあ行こうぜ！」
殺しかけた事実がなかったかのような親しげで暖かい態度。どうしてか分からないけれど、一虎は泣きたくなった。
「…なんで、オレにそんな…」
「？だって心の底から謝ってくれただろ？もうあの日のことは済んだことだ。それに、
マイキーとそっくりだけどほんのり困ったような苦味をまとった微笑み。あの秋の日に全部赦してくれた金髪ポンパドールの幼い面影が過った。
「ヨメ…そっか、うちの姉ちゃんとマイキーの兄ちゃん付き合ってるもんな」
「長ぇから真一郎で良いんだけどな」
「…わかった、真一郎くん」
大きな手が頭上から降ってきて、頭に着いたと同時に、一応整えてきた髪が崩れる程にぐしゃぐしゃに撫でられた。
「え、わ、あ？」
「うわ、面白い感触。地毛とブリーチとが混ざった感じだな！」
「…距離近すぎね？」
「もうオマエは身内みてぇなもんだろ」
マンジローのダチで李里ちゃんの双子の弟だろ。羽のようにやわやわ下降してきた言葉に心臓が温かく拍動をする気がした。
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作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2023年11月6日 15時
