if 白虎と初めの黒い龍 (ページ2)

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1・白虎を囲う黒龍ページ2

S・S MORTORSの店内。冬の優しい午後の光の中、椅子に座って微睡んでいた李里は目の前に誰か座った気配に意識を覚醒させた。
「あ、起こしちまったか？」
「…ん」
　真一郎が眠たげに目を擦る李里を愛おしげに覗き込む。真一郎は、この手先が器用な分生き方が不器用になってしまったような十年下の乙女に、いつの間にか妹分に向けるにしては重たすぎる感情を向けるようになっていた。黒龍時代の仲間たちに指摘されて、ついでにドン引きされたものだ。好きだと思ったらすぐ告白してきた今までとは違って、李里をじわりじわりと囲いこみたいと思っている。第一線を退いたとは言えど健在な、肚の中に巣食う龍。執着の強いそれが、逃げられぬように雁字搦めにしてしまえと肚の底で喉を鳴らしている。しかし、理性は慈しみたいと叫んでいる。雁字搦めなのは自分だなと苦笑した。
「…真一郎さん」
なでて。そういって、小さく少し硬い手に手を掴まれ、染めた痕跡のない丸い頭部に引き寄せられる。成猫が、仔猫時代の名残で前肢で何かを交互に踏むようなその仕草だ。眠気で上がった体温で強く香るシャンプーと体臭の混じった匂い。手入れをしているらしく滑らかな髪。極めつけは、蕩けるような笑顔。キュートアグレッションのままに、思わず華奢な体をきつく抱き締めてしまった。
「真一郎さん…？」
そのまま抱き上げて、自室に連れ込んでしまおうか。奪われぬように沢山の所有印をつけておこうか。そんな考えが脳裏を過る。慌てて理性を総動員させて、おふざけの方向に走った。
「オマエほんと可愛いよな」
「…」
「懐いてくんのも、撫でたら喜ぶのも…」
「…？、？」
「しかも、手先器用だし」
「…？、！」
「オレのことを二回も助けてくれたし」
「うわぁ！誉め殺しマシーンモードだ！」
抱っこにイヤイヤする猫のように意識のはっきりした李里が背を反らした。後ろにコケてしまっては危ないので真一郎は少しずつ力を緩める。少しずつ体を離して…後悔した。耳まで真っ赤になった李里が、伏し目がちに目を反らしている。それがどうしても前戯の途中の表情に思えて、血流が一部に集中するのがわかった。
「…ワリ、トイレ行くわ」
「えっ、あっ、はい」
何故唐突にトイレなのか分からなかったが李里は素直にそこに座っておいた。