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辛いわがまま ページ10

額田と対面した翌日、青ざめた顔色で帰宅したAに神奈備夫妻は何があったと問い詰めた。
「おじさま、おばさま、私と縁を切ってくださりますか。あの女にここが知られたら、おじさまとおばさまが…っ。いやなんです、おじさまとおばさまがあの人たちのように私を全くの別人であるように扱うのは…!」
「落ち着け。呼吸が乱れている」
「手もこんなに冷えて…囲炉裏端で温まりなさいな」
 温かい火にあたって、規則的に背を撫でられると呼吸が落ち着く。頃合いを見計らって光穂はAに水を向けた。
「で、何があった」
「夢柱が、私の悪い噂を流しました」
「まぁ…」
 穂希が苛立ったような顔をする。噂とは言えど娘を悪し様に言われて嫌だったのだ。
「でも、あなたをよく知ってくれている人が居たんじゃないの?」
「駄目でした。二人を除いて全員、夢柱に操られた」
「誰なんだ?」
「岩柱と風柱です」
「他の人と何か違うのかしら。それを知ることができれば対策を立てられるのだけど」
 他の人と違うところ…と言われ、少し考え込む。そして差した一筋の光明にAははっと顔を上げた。
「分かりません。ですが、もし分かったとしても言いたくはありません。危険性の高い賭けをあなた方にして欲しくない。だから逃げて欲しい、私のことを聞く人が居たら知らないと言って欲しい、私と縁を切って欲しいんです。分かってください」
 身を切るような辛さだ。でも、大好きな彼らが操られるのが耐えられないからAはわがままを言わねばならないのだ。ああくそ、あの女さえ居なければこんな辛いわがままを言わなくて済んだのに、と思わずには居られない。そんな感情を渦巻かせているAの頭に光穂は手をぽんと載せた。
「不甲斐ない親ですまん。分かったよ。かわいい娘がそこまで言うんだ。なぁに、生きてりゃまた会える。そんで、お前が夢柱から逃げ切った暁には盛大に祝ってやるよ」
「あなたが好きなものをいっぱい作るわ。だからまた会う日まで絶対に生きるのよ」
Aは幼子のように泣いた。状況は歪で上手く伝えられなかったのにこの優しい夫妻は己の子として信じると言外に言ってくれたのだ。それがひどく嬉しかった。
「さ、お風呂に入っていらっしゃい。疲れたでしょう」
柔らかい労いが患部に浸透する薬のように心にしみた。

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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時

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