恐懼 ページ9
任務をこなして二年、いつの間にか鬼の討伐数が五十を越えていた。階級も甲に上がっている。Aは鳴柱に是非継子になって欲しいと望まれ、継子になった。
「継子になったんだな。おめでとう」
「親として鼻が高いわ」
祝いの言葉と共に、光穂と穂希から羽織が贈られた。やや短めで白い地の裾に萌黄色と桔梗色の雷紋と蔦が刺繍されている。
「ありがとう、ございます」
早速袖を通す。藤のお香の匂いがふわりと薫った。
継子としての任務は大変だった。柱に着いていく分、死亡率は上がる上に、性別や同年代の者と比べて幼い容姿からやっかみも受けやすい。もしAの精神が年相応のものだったならば心を病んでいただろう。嫌がらせを折り目正しく無視して、鬼を斬って、忙殺されている内に一年が経ち、師範は怪我を理由に引退し、Aは鳴柱に任命された。
「拝命いたします」
紫雷A、17歳、鳴柱就任。
それから五年が経ち、新たな柱が就任した。夢柱、
初めて顔を合わせた柱合会議でちりちりと向けられる敵意にAは困惑した。関わったことも無ければ、何かした覚えもない。そんな彼女に敵意を向けられる理由が分からなかった。
「ちょっと、来てくださいますか」
柱合会議が終わった直後、有無を言わせぬ強さで腕を捕まれて、路地裏に連れ込まれた。
「アンタ転生者でしょ?原作にアンタみたいな奴居なかったわ!邪魔。アンタが今居るのは私の居るべき場所よ!」
ヒステリックに捲し立てる額田にAはただひたすらに困惑して引いた。なにせ唾を飛ばしながら喋っているのだ。ばっちい。
「居るべき場所…?」
「そうよ!」
折角の愛らしく美しい顔立ちをゆがめて怒鳴り散らす彼女が得体の知れない生物のようで恐ろしい。
「あなたもじきにこうなると思いますが」
「うるさい!」
記憶がフラッシュバックする。人を食ったような口紅の、愉悦に歪んだ唇。栗色に染めた波打つ髪。肩を押されて、横から迫る眩い一対の光と、ぶれて高速で流れていく視界。雨。
脂汗が垂れた。鼓動が耳につく程うるさい。まるで、鬼と対峙するときのような気分で額田を見た。
「譲りたくないのね。ならばこっちにも考えがあるわ。精々頑張りなさい」
意思の疎通ができない。薄気味悪い笑みを浮かべ額田は去った。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時