初任務と全て奪われた女 ページ8
崩れかけとは言えど神社であるので参拝するときのようにして境内に入る。神社特有の張り詰めた神秘性は崩れ、あるのはうらぶれた寂しい不気味さだ。苔むした石燈籠の列に沿って進み、祀られている神に無礼への赦しを乞いながら社に踏み入れる。中には人型のものが動く気配があった。
「ぼうや、わたしのぼうや、どこ」
それはぶつぶつと呟いて、Aに詰め寄る。
「わたしのぼうや、どこにかくした」
Aは爪を抜刀した日輪刀で弾いた。甲高い硬いもの同士がぶつかる音がする。Aは鬼から逃げ回るように走り回った。悲鳴嶼はその意図に気づき耳を澄ます。足音の響きから鬼の座標と形を割り出し、その首に刃を振るった。椿の花のようにぽろりと鬼の首が転げ落ちる。
「あ、あ…」
「大丈夫、あなたの坊やと旦那さんはあなたを待ってくれている筈ですから」
耳に吹き込むように囁くと鬼は安堵したような安らかな表情で消滅していった。
「…一段落、ですね。報告だけして帰りましょう」
「ああ」
報告を済ませて、家に帰る。家族はもうとっくの昔に寝ていた。身を清めて、光穂か穂希が敷いてくれていた布団に潜り込んだが眠れない。鬼となった彼女の一生が頭を廻る。
「夫と子を殺され、尊厳を踏みにじられて、鬼にされて、復讐して、子供をたくさん食って、私たちに殺されて…なんとも胸糞悪いな」
頭をすっきりさせるために、縁側に出た。病人の顔のような満月が空に貼り付いている。暫く眺めていたが少し寒くなってきて布団に戻った。今度は、眠れそうだ。意識的に呼吸をゆっくり、深く吐いて目を閉じる。眠りは、もう足先からどんどん侵略してきていた。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時