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ただいま ページ5

Aは藤の檻の中で七日間を生き残った。拠点にしていた、蔓を編んだ質素なツリーハウスから出て背中を伸ばす。布団がひどく恋しかった。
 下山して藤の簾をくぐると、生存者たちがくたびれた顔で座っていたり寝ていたりする。その中に言葉を交わした悲鳴嶼と個人的に心配していた狐面の受験者が居て、鼻で笑ってきた奴がいないことにAは喜色を露にした。
「生き残ったんですね」
「ああ、アンタが伝えてくれた情報のお陰だ。なんとか生き延びられたよ」
 狐面の受験者は疲れたように笑う。その衣服は死に物狂いで逃走した痕跡が見られた。
「本当に、ありがとう」
Aはふるふると頭を振った。
「私の話をあなたが信じてくださったからです」
情報は相手が聞こうとしてくれないと意味がない。そう言うと狐面の受験者は頬を掻きながらはにかんだように笑った。
 採寸をして、手に階級を彫り、鎹鴉の配布があり、玉鋼の選択があって、ようやく帰っていいと言われる。三々五々と受験者が帰っていく中、意を決してAは運営側の女性に話しかけた。
「あの、」
「はい。如何されましたか?」
「この藤襲山に、受験者では分不相応な強さの鬼が居たのです。この事を運営側の方はご存知ですか?」
 女性はきょとんと瞬いたあと、いいえ、と否定する。
「初耳です。当主に伝えておきましょう」
「お手数おかけして申し訳ありません。ありがとうございます」
それでは、とAは頭を下げて帰途に就いた。
 数年を過ごした家に帰ってきた。気恥ずかしいようなむず痒い感覚を覚えながら、駆け寄ってくる両親に言う。
「ただいま」
「よく、帰ってきてくれた」
「おかえりなさい、A」
ゆっくりお風呂に入っておいで、と穂希に風呂場に放り込まれ、体を洗って垢や汚れを落としてから湯船に浸かってぼんやり天井を見上げた。
「はぁー、疲れが溶けてく…」
固まっていた筋肉がほぐされ、凝りが緩和される。ちゃぷちゃぷと湯を手で遊び、水面を揺すった。
「湯加減はどうかしら?」
「あ、ちょうどいいくらいです」
穂希に応答しながらAは自身の体を見下ろした。所々ぶつけた青アザがある、まだ全盛期ではない体。女らしい凹凸はほぼ無く、背も大きくはない。その子供のような容姿がナメられる要因にならなければいいのだが、と溜め息を吐いた。
「ま、実力で黙らせればいいかな」
忘れないうちに訓練をしておかないとな…と煙を吐くように呟く。それを穂希が微笑んで聞いていた。

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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時

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