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肉の繭 ページ34
震動が治まった時、夜明け前特有のにおいが鼻の奥をくすぐった。外だ、と知覚すると同時に、Aは恐ろしいものを見た。建物ほどもある肉の繭。本能が警鐘を鳴らすそれが鬼舞辻無惨だと、何故か判った。玄弥を後ろに庇い、肉の繭に警戒を向ける。
「玄弥くん、君は、少し離れた高いところから狙撃に集中して。誰が傷付こうが、誰が死のうが、鬼舞辻無惨に引き金を引いて。…酷な頼みなのは分かってるけど」
ふ、と笑った息を返された。それと同時に、銃を担ぎ直す音がする。
「誰が俺を鍛えたと思っているんですか。悲鳴嶼さんと、あなたですよ。岩柱と鳴柱に直々に鍛えられたんです。そうそう簡単には心は折れませんよ」
それでは、健闘を祈ります。という声と供に、足音が遠ざかっていく。その音を背に、Aは不敵な笑みを浮かべた。
肉の繭から人影が出てくる。背から無数の触手を生やした鬼舞辻無惨。そのあまりの奇妙な風体に、思わず失笑を漏らした。
「貴様ごときが災害と同じ？笑止千万。ちゃんちゃらおかしくて片腹痛い。日光を恐れて溝底の泥虫のごとく縮こまっている貴様が？八百万の神々が起こす物事と同じだと？烏滸なものよ」
敵意を一身に受ける。向かってくる攻撃の一切を全て防ぎながら、活路を切り開いていく。柱の面々は、それを理解して攻勢についた。太陽が昇るまで、あと一時間。柱のほぼ全てが集中して始祖の鬼を殺しにかかっている。勝利の色が少しずつ強くなっていた。
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作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2022年8月8日 20時
