戦いの火蓋 ページ33
落ちながら感情に飲まれていてもAは柱であったので、脳の片隅で状況を整理する。敬愛されるべきあの人は、捨て身で奥方様と子供の内二人と共に鬼舞辻に攻撃した。死んだのだ。そして、今落ちているのは鬼の根城。ここが正念場だろう。愛しい継子が無事かどうかは心配だが、まずは目の前の敵を斬ることが先決だ。血が熱くなる。酸素が全身を巡って、蹴った建造の一部が大きく凹んだ。
雑魚を灰塵に帰し、索敵を続ける。羽の音に意識を向けると、鎹鴉が嘴を開いた。
「カァア!胡蝶シノブ!死亡ー!上弦の弐撃破ー!」
「…しのぶさん」
全てが終わったら、一度お喋りしてみたかった彼女が逝った。溜め息をひとつ吐いて、伸びてきた攻撃を殺し、その大元も斬り捨てた。鬼舞辻を見つけて殺すために方向のわからない城を走る。曲がり角の寸前で誰かとぶつかりそうになり、たたらを踏んだ。幾分高い位置にある頭を見て誰か認識したAはにっこり笑う。
「玄弥くん!良かった、生きてたんだね。お兄さんは?」
「…はぐれました。あっ、兄貴と行動をしている獪岳さんは無事です!」
「分かった。じゃあ、一緒に行こうか」
「はい!」
戦術から何から教え込んだ甲斐あってか、玄弥はこの不可解な敵の根城を生き延びていた。安堵の涙が出そうになったのを引き締める。泣くのは、全てが終わってからだと決めていた。
玄弥と行動を供にし始めて五分と経たない内に、城が地上へ上昇を始めた。決して離すまいと互いに手を組み合って、震動に耐える。夜は、まだまだ明けないのだ。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時