思い出す ページ32
上弦の壱を討ってから3日後の夜。産屋敷邸の一部が爆散した。爆風に吹き飛ばされた建材にぶち当たってAの体が軽く吹き飛ぶ。猫のように空中で体を捻って着地するが、胴にぶち当たる重たいものの衝撃が引き金となって、記憶の奔流に呑まれた。
雨の夜。仕事帰りに恋人からの連絡を見て上機嫌のまま歩く。白地に萌黄のワンポイントが可愛らしい傘を時折回しながら鼻唄を歌っていると、肩を叩かれた。
「はい?」
「アンタ、***と付き合ってんでしょ?」
出された恋人の名前に戸惑いながらも頷けば、胸座を掴まれた。
「別れなさいよ!アンタが居るからこの私を、額田藤子を好きになってもらえないのよ!」
「…どうしてですか」
「好きになってもらえないからって言ってるでしょ!」
「どうして、私の恋人に好かれたいんですか」
じっ、とマスカラを塗ったくった睫毛の奥を見据える。
「あんなイケメンが私のものじゃないなんておかしいじゃない!」
「…あなたは彼を物として見ているんですね。尚更別れる理由が無くなりました」
「うるさい!アンタみたいなブスは同じく底辺とよろしくやってれば良いのよ!」
雨音に側を車が通る音が乗っかった音にも負けない甲高くて大きい声だった。
「別れないならこうよ!」
肩を強く押されて、車道に尻餅をつく。慌てて立ち上がれども遅く、気付いた時には大型車のヘッドライトが目睫の間に迫っていた。
心臓が嫌な音を立てる。条件反射的に一歩足を踏み出した瞬間に足元が開いてAは落ちた。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時