最終選別 ページ4
ケープの下は光穂が選別の際着ていたものだ。荷物をしっかり持って、家族の方を振り返る。光穂も穂希も微笑んでいた。
「行って参ります」
「ああ、行ってらっしゃい」
「帰ってくるのを待ってるわね」
穂希に、切り火をしてもらい見慣れた道を歩いていく。最終選別の藤襲山まで歩くのだ。疲れにくい歩き方で向かう。道中で休憩を挟みつつ、地図の通りに行けば受験者と思しき少年少女が集ってきていた。
藤襲山は、鬼が苦手とする藤が一年中狂い咲いている。だから、中に閉じ込められた鬼は出てこられない。
「…どこの層向けの地獄だろう」
藤の檻に閉じ込められた鬼たち。そこで奇妙な連帯感が生まれ、恋に落ちた鬼の二人組は─
頭を振ってその考えを頭から追い出した。出てお行き、お前の居場所はここではないよ。
Aは暇をもて余して周囲を見渡す。巨躯の青年が目についた。額には傷跡、目は光を写していないのか瞳孔までもが白くぼやけている。
「こんばんは。緊張しますね」
「ああ…」
急に話しかけられて驚いたのだろう青年は目をぱちくりしていた。なんだか少しかわいいぞ、とAは上がりそうになる口角を必死で抑えた。
「一人で黙っていると鬱々としてしまうので話しかけちゃいました。私は紫雷Aと申します。」
「私は悲鳴嶼行冥という。確かに、少し息の詰まる緊張感があるな」
「鬼の気配もしていますしね。受験者が飛び出してきた瞬間食らうつもりでしょうか」
至極和やかに世間話でもするような気軽さで言うAに受験者のうちの誰かがひっ、と息を呑んだ。
「師匠によると、そこまで強い鬼はいないらしいんです。ですが、」
狐の面をつけた受験者を狙う、かなりの人数を食った鬼が居るとか。と、狐面をつけた受験者をちらりと見やりながら言った。
「なぁ、それをどこで聞いたんだ?」
狐面の受験者は問いかける。
「師匠からです。友人が食われたそうで、遭遇したら逃げろと言われました。師匠曰くあれは階級が上から六つ目の隊士数人がかかって倒せるくらいの鬼だそうです。見かけは沼色の躯と鈍い黄色の目、大量の腕だと聞いています」
皆さんも、気をつけてください。とAは静かに言った。それを鼻で笑う声が聞こえる。女は臆病だという嫌味だった。Aは聴こえていないふりで流した。別に興味のない奴にどう思われようが関係ない、調子に乗った奴からくたばると思ったのだ。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時