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耐久戦 ページ29

闇夜に紫電と月の剣戟が走り抜ける。Aは上弦と戦っているとは思えない程に疲れも傷もあまりなくちょくちょく黒死牟を窮地に陥らせた。
「…ここまで…私の心を昂らせる者は…何百年ぶりだろうか…最近の…隊士は…質が落ちたな…」
「ま、そうでしょーね。人斬りを生業としていたものはもう殆どいませんし」
月の斬撃がAの髪を一房かすった。
「ッとっと。死細胞でできているとは言え、なんとなく嫌ですね」
今度は紫電の斬撃が、すっぱりと黒死牟の腕を落とす。そして、黒死牟が腕から直接生やした刃を足場代わりに跳び退って、軽業師のように着地した。Aの速さを以てすれば追撃も可能だったが、飛び退いたのには理由がある。それは、Aの長く垂れた髪を移動の余波で激しくはためたせた風。白い修羅のような人物。
「よォ、鳴柱。上弦ってェのはコイツか?」
「そうですね。でも、まだこの鬼は全力じゃないですよ」
避けながら会話を交わした。相手の筋肉の少しの撓みも収縮も見落とさぬようにぼんやりと全体を見る。
「いつになく殺気立ってんなァ?」
「…私の継子を狙ったんです。当然でしょう」
Aの継子の溺愛っぷりは凄まじいと実弥は知っている。だからすとんと腑に落ちたように頷いた。
「なるほどなァ。そりゃあ大人しいテメェも荒れるわな」
「親しくしてくれている人の誰を狙われたとしてもこうなっていたと思いますけれどね」
再生を終えた黒死牟が醜い姿に変貌する。Aはそれを見て静かに呼吸を深くした。生まれつきあった木の枝のような痣の肩が服の下で熱くなって、そこから伝播するように体温が上がっていく。リヒテンベルク図形のうちひとつをなぞる紫電が身長に見合った脚に、黄金色の刀身に絡みついて爆ぜる音がする。目睫の間に居る敵を睨み付けると同時にAの姿が残像しか追えなくなった。極限まで鍛え抜いた肉体に雷神の宿るような気迫で確実に黒死牟に傷を刻んでいく。
「速ぇ…!」
剃刀の刃一枚すら入れる隙の無い時を置き去りにするかのようなめぐるましい剣戟に、実弥は入り時を見計らって、加勢に入った。剣戟が止む。飛び退いたAは性急な呼吸をしながら実弥に話しかけた。
「…助かりました…ありがとうございます…」
「この位なら当然だろォ」
「恩に着ます。それにしても、上弦の壱はそんな成長してませんねぇ。私たちは鍛練をすればする程強くなる」
わざと声を大きくして、世間話でもするような声色で言う。

血に酔うは鬼か人か→←愛しき子の帰還



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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時

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