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愛しき子の帰還 ページ28

精神状態の安定した獪岳が、鳴柱邸に帰ってきた。玄関で彼は立ち止まって日が落ちたばかりの薄闇の逆光の中で柔らかく笑う。
「ただいま戻りました」
「…おかえり、獪岳」
どうしようもない愛しさが胸を締め付ける。思わずいつもは高い位置にある頭を撫で回した。
「師範、もしかして寂しかったんですか?」
「そりゃア勿論。玄弥くんもちょいちょい顔を出しに来てくれたけど、やっぱ君が居ないと寂しいもんだよ」
例えば、一人で素振りをする時、いつもは近くにあるはずの気配がない。食事をする時、一人分作りすぎたおかず。洗濯物を干す時、がらりと空いた物干し竿。それらを見るとなんとも言えない心に隙間風の吹くような冷たさが広がるのだ。その記憶を打ち消すように、Aは目を閉じて乱した堅い獪岳の髪を整えるように指を通した。
「…そうですか」
獪岳は頭皮を擽るような感覚に満足の息を吐く。今、俺のことをこの人は一番に求めている。壱ノ型を使えるようにと色々考えてくれた、年若い女性であるというのに柱である凄い人が、聖人のように穏やかな人が、俺のように色んな奴にバカにされてきた者に執着して、強く求めてくれている。そう思うだけで勝ち誇るような、綺麗な物を汚した時の罪悪感のような、愛情を享受するような、様々な快さを綯交ぜにしたような感覚が彼の中で生じた。
「仕方のない師範ですね」
獪岳の腕が撫でようとAの頭に伸びる。それとほぼ同時に筧が飛び込んできた。
「伝令!上弦ノ壱、出現!甲隊士四人ト交戦中!」
「ありがとう筧」
 甘やかな雰囲気は一気に霧散する。条件反射的に離れた二人は、各々隊服を纏って日輪刀を腰に佩き、獪岳は草履を、Aは特注の安全靴を履いて、戸締まりをして家を飛び出した。
「獪岳、君がすべきことは分かってるね!」
「はい!勿論です!」
途中で別の方向に別れ、Aは上限の壱の元へ急いだ。勿論、その息に乱れはない。
「や、どーも。随分派手にドンパチやってくれたようで」
辺りには、虫の息の隊士たちが転がっている。
「鬼殺隊が鳴柱、紫雷A、参る!」
「上弦が壱…黒死牟…参る」
最速の名を冠するAの速さは黒死牟の目でやっと追える程だった。しかも、防ぎにくい所に吸い寄せられるように剣が通る。
「お前は…透き通る世界を得ているのか…」
Aは明確な返答をせずただ口角を上げた。

耐久戦→←痣



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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時

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