茶化すような忠告 ページ25
「玄弥くん、外つ国の勇者は壺に入った鬼を殺したこともあるんだってさ」
暫く黙考したかと思いきやいきなり突飛なことを言い出すAに玄弥の表情に訝しげな色が浮かんだ。
「は?え?いきなりどうしたんですか?」
「怪しい壺が道端に転がってたら、撃ってみなさいってことだよ」
「からかわないでください!」
むすっと拗ねた表情の玄弥にあはは、ごめんごめんと笑って、見かけより柔らかいモヒカンを撫でながら謝る。嘘ではないので、冗談だよ、とは言わなかった。
「まァ、それはそうとして気をつけて行ってきなね。行冥さんも、獪岳も、私も、君のことが大好きだから、必ず生きて帰ってきて」
「…はい…」
照れられながら言われた言葉にAは暫く固まってから髪をグシャグシャにかき回す。撫で方が兄ちゃんに似てると言われたのだ。
「わわっ、ちょっ!?」
「絶対、またここに来るんだよ。いいね?」
Aは玄弥にも執着を抱いていた。かわいい奴として気に入っているとも言う。素直に慕ってくれる子を愛しく思わないわけがないだろう。
「…ふふ、わかりました」
次男坊とは言えど、五人の弟妹の兄だった玄弥はAの不器用な甘えに目元をくしゃっとさせて笑った。
玄弥が帰った後、Aは静かすぎる屋敷の縁側に横たわる。前世のことを深く思い出していたのだ。自分と額田が居ない場合の辿る結末も、額田が狙うであろう人物も、全てが見えている。
「見事に分かりやすく見目麗しい奴らばっかり」
色目を使っているのは、水柱、音柱、霞柱、風柱と恋人の居ない下級隊士だ。炎柱は先日洗脳が解けて外れ、蛇柱は恋柱にほの字であるため外れ、恋柱と蟲柱は女性であるため外れ、岩柱はあの見かけから避けているようだ。個人的に気に入っている玄弥も岩柱と同様の理由で避けているようだ
「…気付かなくて、良かった」
独善的だが、額田が悲鳴嶼や玄弥の魅力に気付いてくれなくて良かったと思ってしまった。
「彼らの良いところは、額田にはわからなくていい。ぼんくらで良かった。…でも、獪岳を引き抜こうとしたのは許さない。あの子は私を踏み台にして更なる高みに上る。決して我妻隊士の気を引くためだけのエサであっていい筈がない」
自分でもこの執着が重たいとは分かっている。だがどうにもならない。
「あの子が安心して任務に当たれるように、あの衆道鬼は消しとかないと」
どこかで六目の鬼が嚔をする。悲しいかな、勘違いを訂正してくれる人はどこにも居なかった。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時