検索窓
今日:28 hit、昨日:9 hit、合計:830 hit

雷獣と義足の元柱 ページ23

桃の香りがする家を、Aと獪岳は訪れた。
「ごめんください。桑島様はいらっしゃられますか?」
「はい、少々お待ちください」
門扉を叩いて問いかければ、幸運にも目当ての人物は在宅だった。
「…獪岳!…と、」
小柄な壮年の男性に獪岳は縋りついた。Aはひとつお辞儀をする。
「はじめまして、鳴柱の紫雷Aと申します」
「おお、ご丁寧にどうも。育手の桑島慈悟郎です。ところで、どういったご用で?」
「…実は」
ことのあらましを語ると、慈悟郎は明らかに顔色を悪くした。
「…そんなことが…」
もう獪岳は泣きかけだった。だってそうだ。何倍も強い異形におそらく性的な目を向けられたのだ。しかも、ねっとりじっくりとだ。怖いに決まっている。
「桑島様、暫く彼と一緒に居てくださりませんか?かなり精神的に磨耗していて、付き合いの短い私では役不足かもしれませんから」
「…師範は、ここに居てくれないんですか?」
慈悟郎から離れた獪岳はAのケープの裾を掴んだ。Aはへにょりと眉を下げる。
「や、私、あの鬼のブツを踏み潰す為に蹴り技を中心に鍛練するのと、それ専用の安全靴を作成しないといけないから…」
それを聞いた慈悟郎はぶふぉっと吹き出した。
「見かけによらず苛烈なおなごじゃな」
「それはどうも」
 苛烈邪道は褒め言葉だ。戦争なのだ、鬼狩りは。向こうが卑怯な手を使うならばこちらも邪道な手を使わねば非礼というもの。考える頭が己にあるならば、悪鬼を生かさず殺さず翻弄して全力で潰す策を考えるべきだ。そういう考えで、Aは今まで戦ってきた。
「それで、師範。居てはくれないんですか?」
愛しい継子の、捨てられた子犬のような表情を見て、Aは言葉に詰まる。
「居たいけど…見回りの範囲増えたし、少し難しい」
そうですか…と項垂れる獪岳に謎の罪悪感を感じて、Aはできるだけ足を運ぶようにするから、と付け加えた。途端にご機嫌になる継子の様にほっと胸を撫で下ろす。掌の上で転がされているような気がしなくもないが、継子が可愛くて仕方がないからどうでもいいや、と、Aは慈悟郎に獪岳を預け頭を下げて、そこを後にした。

 獪岳は遠ざかる背を見つめる。雷獣の二つ名の鳴柱。その背中が少し寂しげなように見えてほの昏い喜びが湧いた。沢山褒められて肯定されて、忙しい合間を縫って稽古をつけられた獪岳はAに強い尊敬とも執着ともつかない感情を抱いていた。

得てして師弟はよく似るものである。

繋がる線→←生還という快挙



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
設定タグ:鬼滅の刃 , 獪岳
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。