壱との戦闘 ページ21
ある日の任務。Aはぞわりとうなじの毛が逆立ち、反射的に獪岳の首根っこを掴んで横に飛んだ。先程まで自分たちが居た場所を身の毛もよだつような見かけの剣が掠めていく。剣の柄に手をかけて、前をきっと睨む。六目の鬼が愉しそうに目を細めていた。
「…柱か…圧倒的に強い者の…気配だ…」
「そちらさんは、上弦の壱か。きついな…獪岳。走って帰れ」
「でも、師範!」
口をついて出たと思われる反駁の声。Aは獪岳の前に立ちながら冷たく言い放つ。
「帰らないというならば、鴉を飛ばし死なないように攻撃を避けながら援護。鬼殺隊最速である私の継子の君ならできるでしょ?」
夜明けは遠くない。紫電が走る黄金色の刀身を構え地を蹴った。
上弦の壱は強かった。鬼であるというのに呼吸を使うのだ。
「ちっ、厄介な…」
深めに裂かれた頬から流れる血を乱暴に拭って、腰の兵器に手を伸ばした。ピンを抜きそれを投擲する。思ったところで爆散し、中身が上弦の壱に降り注いだ。
「…!」
中身は藤から抽出した毒を濃縮した液体だ。目が多い分、視覚に頼るところも多いのだろう。獪岳が藤の煙玉を地面に叩きつける。それを視認して、雷の呼吸を使って脱兎の勢いで獪岳の手を引いて夜明けまで全力で逃げ続けた。
白く強い朝の光の中で、師弟はぜぇぜぇと肩で息をしていた。
「やー、キッツ…あんなの柱数人がかりじゃないと無理…」
「師範、喋る暇があるなら止血してください」
「それもそうだね」
アドレナリンが出ているお陰で動けているがAは満身創痍だ。胸を浅く裂かれている上に、背をざっくり深く斬られている。流血が止まり始めた所に羽織をきつく結んだ。裂かれて血にまみれた、穂希と光穂によって丁寧な刺繍がされた羽織。Aは言い様のない罪悪感を感じた。きっと二人は我が子の命を救う助けになったと聞けば良かったと言うだろう。
自分の手当てを終えたAが獪岳の脚の傷に布を巻いてやっていると鴉と共に隠が走ってきた。各々隠に背負われて、蝶屋敷へ運ばれる。カナエが傷の様子を診る。
「…ぁふ」
その最中欠伸が出た。失血で体が睡眠を求めているのだ。
「まず、傷を縫いましょうか。背中をかなりざっくりやられているみたいだし…あら、胸も裂かれてる。こっちは浅いから消毒液だけで良さそうね」
カナエはてきぱきとAの傷を処置した。沁みる消毒液を塗布し、消毒された針と糸で背中の傷を縫う。Aはごく微かな背中の痛みに耐えていた。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時