因縁 ページ20
Aは困惑した。いつも堂々とした獪岳が珍しく不安げに雷紋の羽織の裾をつまんでいるのと、目の前の悲鳴嶼が何も言わずその盲の目に罪悪感と微かな怒りを薄くのせていたのだ。
「なに、二人とも知り合いなの?」
「…はい。岩柱様は幼い頃の俺を引き取ってくださりました」
「桑島様の所の前は君は行冥さんのとこに居たんだね。なるほどね」
暫くすくんでいる二人に痺れを切らしたAは両名の手を引いて、近くの茶屋に入った。
「立ち話もなんだから、座ろうよ」
団子と茶を注文して、Aは二人の間に座った。
「さて、ここで気になったことを全部言ってみようか。今のうちに気になることは解消しておこうよ。一瞬の気のブレが命取りになることもあるのは二人とも分かってるでしょ」
「はい、師範」
「…そう、だな」
どちらも飲み下すのも辛い苦い薬を飲んだときのような顔をしている。頭では理解できても心が四角く切った茹で玉子の切れ端のように置いて行かれているのだ。それでも、二人は少しずつお互いのことを話した。すれ違いや誤解が擦り合わされて少しずつほどけていく。
「ありがとうA。蟠りが少し解れた」
悲鳴嶼の大きな武骨な手が、頭を撫でた。
「…君たちには笑っていてほしいからね」
機嫌が悪い時の猫を撫でるときの手つきで撫でてくる手を退けながらAは俯いた。恥ずかしいことを言った気がしたのだ。
「師範が居てくれなかったら、もしかしたらもっと拗れていたかもしれませんね」
「そうだな。Aが居てくれて良かった」
「…誉めても追加注文の饅頭しか出ないよ」
照れ隠しに、店員に饅頭の追加を頼む。そんなAの行動を見ていたかと思うと、獪岳と悲鳴嶼はさもおかしそうにクスクスと眉尻を下げて笑った。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時