雷獣の涙 (ページ19)

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雷獣と蝶々ページ19

継子が血鬼術の毒を食らったので、Aは蝶屋敷まで検査に来ていた。結果は異常無し。
「君に何事もなくて、よかった」
「師範、俺のこと好きすぎません？」
「うん」
「…そういうとこですよ」
そういって雑談をしながら帰ろうとしたところを女主人に引き留められる。
「胡蝶さん、どうかしました？」
「少し、話がしたくて。継子くんを連れていて貰っても構いませんから来ていただきたいんです。」
「…獪岳、今日もついてきてもらっていい？」
「仕方ないですね」
そう言いながらも獪岳は少し嬉しそうだ。
「不甲斐なくてごめんね」
「師範、それ昨日も言ってましたよ」
「あ、ホントだ」
継子に対して砕けた口調で至極楽しそうに話すAにしのぶは目を伏せた。仲良くなれていたら、あの口調で話してくれたかもしれない。だが、その可能性を切り捨てたのは自分自身なのだ。

一行は、とある部屋の前で足を止めた。
「胡蝶さん、ここでいいんですか？」
「ええ。あと、私のことはしのぶ、と呼んでください。姉とこんがらがりますから」
姉さん、入りますよ。と呼び掛けるしのぶに、それに返ってくる声にAはカナエが目覚めたことを悟った。
「Aちゃん、こんにちは」
「…こんにちは」
カナエは暫く動いていなかったせいで筋肉の落ちた姿だった。
「しのぶ、用事は済ませたのかしら？」
「今から言おうと思っているところよ」
今までにない重さと深刻さを纏った声で、しのぶに名を呼ばれる。そして、頭が下げられた。
「今までのこと、ごめんなさい」
その光景にひどく既視感を覚える。だが、Aは反応を返さないのも悪いかな、と返事をした。
「…許すかは別として、謝罪は受け取ります。」
「ありがとう、ございます」
気まずい沈黙が満ちた。さて、どうしたものか
「あ、何故今になって謝ろうと？」
「…あなたへの評価があまりに不当だと気づいたんです。額田さんとあなた、同じことを為したとしても、例えそれがどんな偉業だったとしても、額田さんは誉められるのにあなたはそれが普通だと、それどころかもっと上手くやれと言われる。その事を先日姉に気づかされました」
「そうですか」
親しい人が何か違和感を抱かせることを言うと解けるという仮説を立ててから、ちらりと獪岳を見る。彼は表情を消したまま庭を見ていた。
「それでは、お暇させていただいても？」
任務に備えねばなりませんから、と嘯き、姉妹が頷いたのを見るや否や、失礼しますと獪岳を連れ退散した。