かわひらこ、ひらひら ページ18
しのぶは信じられない話を姉の口から聞いた。姉を救ったのは紫雷Aで、額田ではないというのだ。
「紫電とはためく萌葱の雷紋の小さな後ろ姿を覚えているの」
「姉さん…」
ふと、ものすごく気持ち悪い感覚になる。額田の行動とそれに対する評価、そして、Aの行動とそれに対する評価がどう考えてもおかしいのだ。その事に気づいたしのぶはぞっとした。
例えば、鬼から人を救った時、Aに対する評価は『仕事だから当然。むしろどうしてもっと早く来なかった』なのに、額田の場合は『素晴らしいことをしてくれた』なのだ。
異常を異常だと気づきもせずAを貶していた自分に虫酸が走る。
「…そうよ、そうだった。どうして忘れていたのよ、あの娘は酷いことをする子じゃなかったじゃない…」
「しのぶ?」
怪訝に顔を覗き込んでくる姉のまっすぐな視線が突き刺さる。
「私、あの娘に酷いことを言っちゃったから、謝らないといけないわ」
「そうね」
今こうして姉と言葉を交わせることへの感謝とそんな時間をもたらしてくれた恩人に酷い言葉を投げつけた罪悪感で心中は蛹の中身のようだ。
「善は急げ、よ。この職に身を置く限り、いつなにが起こっても不思議じゃないもの」
「分かってるわ」
蝶は、歩み寄ろうとする。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時