灯の影絵 ページ17
少々暑い。玄関で靴を脱ぐ時間も焦れったいような気分で上がり、隊服の上着の前を全部開けて、シャツの釦も上から二つ外した。それでも暑くて隊服の上着を脱いでハンガーにかけ、鴨居から吊るす。
「師範、はしたないですよ」
シャツの襟からは頑丈そうな首もとが少しだけ覗いている。隊服の上着を脱いだだけの獪岳は、頭が痛いとでも言うように蟀谷に手を当ててゆるゆると頭を振った。
「…嫁の貰い手が無さそうですね」
「なくていいよ。どうせもうすぐ嫁き遅れだし鬼を完全にこの世から消すまで辞めるつもりないから」
親もそれを分かってて縁談を持ってこないからね、と言えば、獪岳は少し目を大きくした。
「師範、家族が居るんですか?」
「今はちょっとあの女関連で縁を切ってるけどさ、血は繋がってない両親が居るよ」
私が雷の呼吸の全部の型ができるようになったのも両親のお陰だ。と微笑むAに獪岳は上手く言葉にできない感情を抱いた。
「ま、それは置いといてさ、さっき私は頭を抱えてたでしょう、あの時少し思い出した。炎柱は本来なら死んでいる筈だってね。」
Aは獪岳の目が少し見開かれるのを見た。
「それは、どういう…」
「内密に頼むよ。彼は本来なら上弦の参に鳩尾を貫かれて死んでいる筈だった。それを覆したのは額田だ。彼女はその任務に同行していた」
彼女が上弦の参を撃破したという報告も入っていただろう?と促せば、賢い継子は思い出して頷く。
「炎柱は額田の術が解けている。額田は流れを曲げた。ここから想像したんだけど、あまりにも元の流れから離れすぎたから彼女の能力は炎柱から解けてしまったんじゃないかなと思うんだ」
さ、見回り区域が増えるんだから仮眠を今のうちに取っておこう、と風呂の準備をしながら何も言わない獪岳の方を見ずにAは言った。
とある場所で、一人の黒髪の女性が目を開けた。けほけほと少し咳をして、深呼吸をひとつする。ゆっくりと起き上がる彼女に合わせて長くまっすぐな髪が揺れた。
「ここは…」
「姉さん…?」
大人びた妹の姿を見て彼女は、数年昏睡していたことに気づく。かすれた声で起床の挨拶をした。
「おはよう」
「姉さんのねぼすけ!もう起きないかと思ったじゃないの!」
大人びても可愛い妹だと、女性は幸せそうに笑った。
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作者名:契 ゐと(元 いときち丸) | 作成日時:2022年8月8日 20時