金曜日の魔法使い

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「…………、！！、れ、ん？」





ガラス玉のような瞳を見開いて

俺の名を呼んだその人。



その懐かしい響きに

心が震えて

閉まっていた感情が

目を覚ます


同時に蘇る

苦い思い。






『ーっ、「うっそー！！れん？！え！なんでぇ！！」








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…………あれ。








「すっごい久しぶり！！え、本物？、あっ信号！

　こっちでいいのっ？」



『…え、あ、うん、』







その人は、ふふって笑った後

行こっ、って俺の腕をとって信号を渡った。








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…あれ、思ってた感じと……違うな。



女々しくも、いつかAに会えたらって想像するやつは

なんかこう、もっと気まずくて…



あーやっぱ無理

ってそこで諦めんねんけど。



「あれ？もしかして私、寝てる！？…あ、痛いや。あははっっ」



なんて、目の前の彼女はテンション高めに自分の頬っぺをつねって笑っている。




『………A……酔ってる？』


「え？あ、うん、そうかな？…そうかも！ふふふっ」





…"そうかも"じゃないな。酔ってんねんな。





初めて見る、お酒の入った彼女。

流れた年月の長さを改めて実感する。





だけど相変わらず、その瞳は澄んだ色をしていて


サラサラと髪が街灯に煌めいて







…かわいいな。


Aって、相変わらずかわいいんや。







久しぶりの、胸を締め付けられるこの感覚。


湧き上がる愛しさ。





「ね、すごいね！私ってよく分かったね！」


『え？あ、そうやな』


「帽子、深めに被ってるのに。びっくりした〜！」


『……あー、』





ブランド物の小さなバッグを持って

薄手のトレンチコートに襟の詰まったブラウス

細いスキニーパンツに高いヒールの靴。

キャスケットを深めに被って、顔はあんまり見えんけど

…キレイな人やな。ってきっと思った。

いい匂いに釣られて振り返ったかもしれん。




でも、そうじゃない。




『声、』


「声？」


『さっき、謝ったときの声。…もしかして、って。』


「……へぇ〜…ふふっ、なんか嬉しいな。」


『ん？』


「もう何年も会ってなかったのに。…私の声、わかるんだ。…あ、そっか！私テレビで喋ってるもんね！」





クスクスと笑う大人になった幼馴染。









なあ、そうじゃないよ。








俺は覚えてたと思う。



お前がテレビになんて出てなくても



きっと、同じように見つけたと思うよ。









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