42 ページ42
.
それからは、バタバタと毎日を過ごし
引越しの準備をして
東京に移って、新しい高校に転校して…
学校に通いつつ、仕事をしつつ
新しい友達も出来て、それなりに充実した日々を送っていた。
たまに、バレエ教室にも通っている。
バレリーナは諦めたけど、やっぱりバレエは好き。
初めは髪を上げる度に、廉のデコピンを思い出して
苦しくなるから、前髪は切り揃えた。
金曜日は、何かと予定を詰め込んだ。
廉を思い出すのが怖かったから。
だけど、公園で買い食いする機会はもう無かったし
自転車の二人乗りをすることもなかった。
そのうち、前髪も気にならなくなって
初めは苦手だったコーヒーがココアよりも好きになった。
たくさん仕事をして、お金を稼いだ。
毎日、たくさん笑って過ごした。
お父さんとの約束だけは守りたかった。
そうやって少しずつ、廉は遠い存在になっていく。
だけど、
細く鋭い三日月を見ると、私の背中をさすって
"大丈夫"って何度も言ってくれたあの日の魔法を
夏の匂いのする夜は、ママの病院の帰り道。
そっと腕を回した、自転車の後ろを
桜の咲く頃は、舞い落ちる花びらを掴みながら
楽しそうに話すあのキラキラとした横顔と
私の頭をくしゃってした優しい笑顔を
思い出す度に、戻らないあの日に手を伸ばして
ー れん、
その人の名を喉から出してしまいそうになる。
バレンタインの頃は、あの日の廉を思い出して
その後暫く、私の中の凍った何かが喉を刺す。
それが痛くてとても辛かった。
でも、来るのが怖かったそんな季節でさえだんだんと
廉は結局、私があげたお菓子は食べたのかな。
なんて、どうでもいいことを考えるくらいになった。
私の中の何かは、相変わらず凍りついたままだけど
これが私の体温なんだ、と思えるようになった。
それ程に月日は流れて、私は本当の大人になった。
妹は大学生になって、弟は高校生になった。
二人とも希望の学校に通って、やりたいことを出来ている。
ママも元気だ。
大丈夫。私は家族を守れている。
.
眩い東京の街。
週末の賑わい。
ほろ酔いの信号待ち。
空を見上げて、ふとその人を思い出した。
…廉は、どんな大人になったのかな。
今、何してるのかな。
サッカー、まだやってるのかな。
気が付けば、廉に最後に会ってから
もう7年が経っていた。
.
1026人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ayuha(プロフ) - のりさん» こちらこそありがとうございます(^^)続編も是非読んで下さいね♪ (2020年6月14日 21時) (レス) id: 3d6cda5c80 (このIDを非表示/違反報告)
のり(プロフ) - お返事ありがとうございます。更新楽しみにしてました。こちらもありがとうございます。 (2020年6月7日 23時) (レス) id: b83e04c731 (このIDを非表示/違反報告)
ayuha(プロフ) - のりさん» 初めまして!コメントありがとうございます(*^^*)感情移入して頂けるなんてすごく光栄です!引き続きお楽しみ頂けるようがんばります(・ω・´) (2020年6月7日 21時) (レス) id: 3d6cda5c80 (このIDを非表示/違反報告)
ayuha(プロフ) - はるまきさん» と、いうことでまた再会出来ました♪やっと抜け出せてたー!(途中、どうしても甘が書きたくて魅惑の〜、に逃げました笑)マスク、しんどいですよね( ´Д`)日常が恋しいです… (2020年6月7日 21時) (レス) id: 3d6cda5c80 (このIDを非表示/違反報告)
のり(プロフ) - 初めまして。タイトルに惹かれ一気に読ませていただきました。感情移入して涙が出ちゃいました。お互いに思い七年後に偶然にも会うなんて。どんなお話になるのか更新楽しみにしています。 (2020年6月7日 6時) (レス) id: b83e04c731 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ayuha | 作成日時:2020年5月28日 2時