ここでキスして。

＊ ページ16

.









｢この資料なんだけど、、｣









各々仕事を片付け、少しずつオフィスから減っていく人たちを横目に、健人さんに渡された資料のチェックをしていく









お昼はいつもと様子が少し違ったけれど、いつも通りの健人さんに戻っていた









｢お疲れ様、もう終わりそう？｣









申し訳なさそうにわたしのデスクにコーヒーを置き、隣に座った健人さんに、今になって時計が20時をさしていることに気付いた









渡された資料はそれなりに多かったけれど、あれから3時間も経っていたことに素直に驚く









コーヒーのお礼とついさっき終わったことを告げると、健人さんはありがとう、と微笑んだ









｢ごめんね、こんな時間まで付き合わせて｣









｢いえ、残業しない日の方が少ないんで大丈夫です｣









当たり前のようにそう言ったわたしに健人さんは眉を顰めた









｢部長はAちゃんが仕事早いからって何もかも押し付け過ぎなんだよ、｣









溜息をつきながら自分のことでもないのに愚痴をこぼす健人さんが凄く珍しくて驚いた









そんなわたしを見て何かを察したのか、健人さんはあ、いや、、と口ごもると言いづらそうに口を開いた









｢、、なんでもいいから、俺のこと頼って欲しいな、って、、｣









まっすぐわたしを見つめる健人さんの目に、気を抜けば吸い込まれてしまいそうになる









｢なんでも、、は、甘え過ぎですよ｣









｢ははっ、そう言うと思った｣









苦笑しながら言葉を紡いだわたしに健人さんは手強いな、と言い笑った









｢甘えてよ、俺、Aちゃんなら超甘やかしてあげるから｣









そうイタズラっぽく続けた健人さんの言葉が本気なのか冗談なのかは分からないけれど、気にかけてくれていることが素直に嬉しかった









｢あ、お腹空いてない？｣









荷物をまとめてオフィスを出ると、不意に健人さんがそう呟いた









｢お礼させて？｣









キラキラと効果音でもついてきそうな笑顔は未だに見慣れない









この笑顔にオチる女の子、多いんだろうな









.

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す