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会議室をあとにしようとしたわたしをジョンハンが呼び止める。
JH「Aヤ」
『なぁに、ユンさん』
JH「見て、夜景が綺麗だよ」
そう高くないこの建物の中からでも、ソウルという街は明るく見えた。
『本当だね』
ジョンハンは会議室の窓から見える夜景を小さく微笑んで見つめていて、そんな灯りはわたし達の顔も少し照らしていた。
JH「この世界には嫌なことも多いし、こうやって理不尽なことだってあるけど」
『うん…』
JH「Aが辛い時にはその雨を避ける傘になるし、嬉しい時は2倍いっしょに喜びたいよ」
『フフッ、歌詞みたいだね』
JH「こうやって2人で綺麗な物だけを見ていられたら嬉しいけど、そうもいかないでしょ?」
『うん、そうだね?』
JH「でも僕はいつだってAが隣に居てくれるから、Aが輝いていてくれるなら。…それだけで幸せだし、大切なことだと思ってるよ」
ジョンハンがそう言った意図も何となく汲み取ってはいたものの、わたしはそれに何も返すことができなくて。いや、敢えて返さなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
ずっとジョンハンがわたしに対する気持ちは良く知っていた。でもそれに応えるつもりはなくて。最初は雰囲気で身体を重ねることもあったけど、それでも。最低だとか冷たいだとかなんだとか言われても、わたし達が同じメンバーでグループである以上、メンバー以上でも以下でも無い。多分これはジョンハンもわかっているはず。
JH「帰ろうか」
わたし達の手は繋がれたまま、会議室を後にする。
事務所の玄関前で、宣言通りジョンハンは手を離す。そして何も無かったように事務所を出た。
わたし達が外に出たとほぼ同時に大きな歓声が上がって思わず肩がすくんだ。ジョンハンも同じだったようで、びっくりしていながらも、わたしの前に立ってくれていて。朝と同じように名前を呼ばれたと思ったら、そこにはたくさんのファンのみんなが立っている。
「Aヤ、大丈夫だった?」
「元気にしていますか?」
「美味しいもの食べて、ゆっくり休むんだよ」
“元気になってね“と書かれたスローガンを手に何人ものカラット達がそこに居て、暖かいその雰囲気と声掛けに泣きそうになった。
そんなわたしとファンの子達を見ながらジョンハンが何故か満足そうに微笑んでいた。
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作者名:柚紀 | 作成日時:2023年11月14日 22時