Who am I ? (ページ11)

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「オカンはああ言うてるけど、俺は絶対受けたほうがええと思うで」

その日の夜、お風呂上がりのアイスを食べていたわたしに向かって、髪の毛を豪快にタオルで拭きながらお兄ちゃんはそう言った。

『なんで？』
「俺には分かんのよ、そういうんが」
『どういうの？』
「あんまりツッコまれたら困るんやけど」
『そのドヤ顔、写真に残しておきたかった』
「うるさい」
『でもママもパパもあかんって言うやん。それからオッケーされたことある？』
「ない」
『やろ？だから明日電話して断ろうと思って』

そう言うと「え？本気で辞めんの？」とびっくりしたように目を丸くさせた。頷いて見せると、「あかん、あかん！」と首を横に振る。

「ぜっっっっったい受けた方がええって！」
『溜めたなぁ』
「溜めたやろ。それぐらい本気で思ってんねん、俺は。まぁ、Aが受けたないんやったら話は別やけど。本気でやりたいって思うならオトンとオカンを説得してもええんちゃう？」
『あ！Aのアイス！』

お兄ちゃんはスプーンに乗っていたひと口のアイスを横から食べて、鼻歌混じりに洗面所へ戻っていった。

お兄ちゃんの言うことは分かる。武勇伝のひとつになれば、なんて表向きに言ってみても、実際のところちょっとやってみたい気持ちもあった。この世界、アイドルになりたいと思う人は沢山いると思う。

その人達に比べるとこんな気持ちでオーディションを受けるのはダメかもしれない。それでも、少しでも、やってみたいという気持ちは嘘ではない。ただ今のわたしには両親を納得させる術も無く、大きな溜息と共にアイスを口に入れた。