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side黒
それから数週間。
試作を何度か重ねて、定休日前日の今日もまた閉店後に厨房に残り、作ったものを焼き上げている。
慎太郎からも意見をもらって完成間近ってところ。
前回新作として出したパンが、慎太郎が発案したお惣菜系だったから、今回俺は甘いものにした。
生クリームを使うかどうかとか、米粉にしてみようかとか、本当にいくつもの選択肢の中から考えに考えて出した俺たちなりの答え。
焼き上がったパンに仕上げをして、完成。
そのまま厨房で、椅子に腰掛けて2人で試食する。
「・・・慎太郎、どう?」
「うん、美味い! これ一番いいよ!」
「ほんと? ・・・あ、うん、いい! 甘さもこれくらいにして正解かもね」
「ね! やば、これほんと美味い(笑) 疲れた頃にちょうどいいし」
「ハハッ、よかったぁ。じゃあこれ、お店に出してもいい?」
「もちろん。・・・北斗、お疲れ様」
あっという間に食べ終わった慎太郎は、俺の頭をポンポンと撫でる。
その顔が何とも優しくて・・・頑張ってよかったなって思えた。
「北斗。ここ、粉ついてる」
「え? ちょ、っ・・・」
「・・・チュッ。ふふ、甘っ。パンより甘いよ、北斗」
「っ、バカ。てか、これ粉ついてないから」
「へへ、バレた」
「もう・・・明日休みなんだし、帰ってからでいいじゃん・・・」
「あ、言ったな? 俺、今ちゃんと聞こえたかんね」
「っ、わかったから、早く離れてよ・・・」
「ふふっ。着替えて家帰ろ」
「うん」
片付けと掃除をして、着替えて、戸締まりをして。
心做しか2人とも歩くスピードが速い気がするけど、新作に向き合っていた間は余裕がなかったから仕方ないか、なんて。
そんな速る気持ちはあれど何となくお互い少し我慢をして、寝る前までのルーティンを全部終えた。
・・・やっと、触れ合える。
「北斗、おいで」
「・・・慎太郎」
「ん?」
「やっぱり、慎太郎の方がかっこいいよ」
「・・・あんまり言うと、今日寝かせてあげらんないよ」
「いいよ」
「ふふ・・・大好きだよ、北斗」
うちのどんなパンよりも甘い、俺の好きな声で表情でそう紡いだ慎太郎から、下から掬うような口付けが送られる。
優しく何度も重ねられて、俺からも舌先を伸ばして絡め合う。
本当に眠れないほどに甘く深く愛されたことは、言うまでもない。
Fin.
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作者名:彩佑実 | 作成日時:2023年6月4日 19時