Ep.158「Special ONE」黄×桃 ページ12
ノンリアル
・
side桃
「大我」
「んー」
今年も残り2ヶ月を切ったある夜、風呂も終わってソファに寝そべって最近ハマっているゲームに夢中になっていると、リビングの入口の方から名前を呼ばれて声だけで反応してやる。
「俺もう寝るけど」
「うん、おやすみ」
「･･･おやすみ」
彼、こーちの"お前もそろそろ寝ろよ"の意の言葉を気に留めない俺に向かってそう言った後、静かにドアが閉まる音がした。
でも次に足音が聞こえるまでには数秒かかったから、明日も仕事だと言うのにまだ手を止める様子のない俺への、口では何も言わない彼なりの心配をしてくれたんだろうと思う。
そんなこーちの行動をゲームをしながらでも把握できてしまう俺もまた、同じようなものかもしれない。
高校時代に知り合ってから13年、こうして一つ屋根の下で生活するようになってから7年。
それなりに時間を重ねてきた俺たちの間には、言葉にしなくても伝わる"何か"がある。
･･･好きとか愛してるとか、そういう気持ちが特にそう。
最初こそ、俺もこーちもなかなか相手がいなくてその場のノリというか雰囲気というか、そんなくだらないものに任せてお互いでハジメテを捨てたけど。
それからも、ずっと一緒にいる。
大学卒業を気に一人暮らしをしようとした俺に、『じゃあウチ来れば？ お前一人なら全然余裕だし』とちょっと適当に誘われて2人で住み始め、4年前に今の家に引っ越すことになった時も当たり前みたいに2人で住む部屋を探した。
誕生日とかクリスマスとかバレンタインとか、イベントの時にはプレゼントはすれど、特別どこか素敵な場所でって訳でも何か感動的な言葉がある訳でもなく、『ん』とか『これ今年の』とかそんな簡単なやり取りだけ。
初めて一線を超えたあの日から、俺もこーちも一度も"好き"を口にしてはいない。
それでも、俺たちの関係に付けられた名前は、恋人一択だ。身体だけなんかじゃ決してない。ただの友人でもない。
この、2人にしかない距離感や空気感が、俺は好きだった。
こーちが寝てから約1時間。時刻は深夜1時。
漸く画面を閉じた俺は、壁を向いてすうすうと寝息を立てるこーちの隣にそーっと潜り込む。
その背中にくっつきはしない。抱き締められながら寝たいとかっていう欲も特にない。
でも、その丸い後頭部を見つめながら、起こさないように心の中でもう一度「おやすみ」と呟いて、目を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1093人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：彩佑実 | 作成日時：2023年6月4日 19時
