３月１日 ページ1
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俺がまだ中３のとき、病院の待合室でアイツと出会ったんだ。川田って名前らしいんだけどね。
俺が住んでたのは宮城県じゃん。東北地方ったら寒いわけですよ、３月とはいえまだ肌寒くはあったし。
じいちゃんの見舞い行ってたときに、なーんか分厚い辞書抱えて歩く同い年っぽい女子が居たから、めっちゃ気になったわけよ。
で、廊下から男の子の声が響いてきたと思ったらその辞書の女子にタックルしたんだ、あれはマジで驚いた。
今思うと随分なつかれてたんだよなぁ、あの子結局俺に心開いてくれなかったもん。
そう、それでタックルされたら当たり前に重い辞書なんて吹っ飛んだんだ。さすがに病院内でそんなことしでかしたら悪いと思ったんだろうな、川田が「そこの人！それ、キャッチして！空中で！」とか言い始めんの。
言われた通りジャンプして空中で捕まえたら化け物かよ、って本気で引かれた目されたんだよなぁ。
え？確かに身体能力はあるほうだとは思うけどさ、初対面に化け物扱いするのはなくね？
まぁそんなこんなで病院内で会うようになったんだ。伏黒は俺のこと善人だっていうけど、今思えば善人って何なんだろうな。伏黒が俺のことそういう風に言ってくれんのはめっちゃ嬉しいよ、そこは誤解しないでな。
だけどさ、善人がもし自分から死んでいったらそれは善人じゃなくなんのかな。よく分からんねぇわ。
川田、二か月後に死んだんだ。５月１日に死んだ。何でもない日だったんだ、アイツの誕生日とか誰かとの大切な日とかそういうものでもなく、本当に何もない、ただの日に。
しかもさ、自ら死んだんだって。
また会おうって言ったのにさ。じいちゃんが死んだのは当然無茶苦茶悲しかったけど、唐突な別れってあんまり悲しくなれないもんなんだ。俺の場合だけど。
でも「正しい死」っていうものを考えさせたのは、川田との二か月間があったからだと思う。アイツが正しかったのは、悪かったのかとかそういうの抜きにして。
どうして今話すのかって？そうだよなぁ、五条先生の封印は解かなきゃいけないし、大変な状況なんだけど。疲れたのかもしんないな、俺。
本当は疲れたなんて言っちゃいけないんだけどな。必ず償わなきゃいけないんだ、けど。
…とりあえず話聞いてくんね？
そこに居てくれるだけでもいいから。
すぐに終わるよ、
だってたった二か月間の話だからさ。
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作者名：レネット | 作成日時：2021年10月11日 23時
