燈 (ページ5)

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君の声を聞いた日ページ5

術後経過を見るために救命HCUに移動した黒崎さん。

麻酔から醒め、挿管は外された。

今のところバイタルは安定、術後せん妄も見られず過ごしている。

「黒崎さん、気分はどうですか？」

「せんせ…」

彼の元へ行き様子を伺う。

まだ身体を動かす程の力は入らないのだろう、ベッドに全身を預けたまま、僅かに首の向きだけを私の方へ向けて視線を合わせてくれた。

「俺、生き残ったんだ…」

「…そうですよ、黒崎さん頑張りましたね」

憂いを帯びた彼の表情。

彼は“助かった”では無く、“生き残った”と言った。

彼はきっと、一度生きる希望を捨てていたのだ。

実の父親に腹部を刺されたという彼の搬送背景を思うと、仕方ないことなのかな。

通報で駆け付けた警察官に発見されて救急要請されるまで、彼がどれ程の絶望を感じていたかなんて測り知れない。

「…もう少しここで様子見ることになると思うからね。何かあったら私でも、看護師さんでも声かけてね」

「……はい、」

少しでも明るく振る舞おうと彼に笑いかけながら話しかけた私に、彼は短く２文字返事を返したきりだった。

「…それじゃあ」

次の患者の元へ向かうため、その場を離れようと背を向けた時だった。

「せんせ、名前は…？」

「え…？ああ…A、A…です」

身体を捻って辿々しく名前を告げる。

「A、先生…ありがとう、生かしてくれて」

か弱く、小さく掠れた声。

でもしっかりと私の耳には彼の感謝の言葉は届いた。