燈 (ページ31)

今日:7 hit、昨日:50 hit、合計:62,245 hit

父を助けてくれた人-2 ページ31

Aさんはたまたま通りかかった所で道端にいるお父さんに声を掛けてくれたらしい。

偶然だとしても、声を掛けてもらったのがお医者さんだったとは…お父さんはなんて運が良いんだろう。

そして、付き添いとして手配した救急車に同乗して来てくれたと言う。

「そう、だったんですね…この度は、父が大変お世話になりました」

「いえ、そんな。私は搬送中の容体見ていただけですし、本当に当然のことしたまでですので…でも大事に至らず良かったです」

Aさんはそう言ってにっこりと微笑んだ。

本当に言葉の通りなんだろう。

根底には医師という正義感も勿論あるだろうけど、雰囲気から優しさが伝わって、困っている人が居たら迷わず助けて来た人なんだろうと感じた。

「…娘さんもいらっしゃいましたし、私はそろそろ失礼致しますね」

ベッドの傍から移動して、処置室の出入り口へ向かおうとするAさん。

彼女の言葉を聞いて、お母さんが「待って！」と声を掛けた。

「お礼はまた改めてしっかりとさせてくださいね」

「あ、いえ、そんないいんですって」

「駄目です！もう、これも何かの縁ですから、お礼はさせて？ね？」

お母さんが尚も立ち去ろうとするAさんに言い聞かせ、そしてお母さんの勢いに負けた彼女は「…わかりました」と言い、互いに連絡先を交換したのだった。

「それじゃあ、吉川さんお大事にしてください」

「ええ、Aさん、本当にありがとうございました」

お父さんの言葉に合わせ、お母さんと私はAさんに頭を下げた。

部屋を出て行ったAさんと入れ替わるように、担当医が処置室に入ってくる。

今日帰るのが大変そうで有れば入院して行って良いとのことで、明日の朝までお父さんは入院していくこととなった。