燈 (ページ28)

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帰路にて-1 ページ28

≫A side

懇親会を終え、会場を出た私は宇佐美さんから受け取った名刺を見つめて会場での様子を思い出す。

多くの先生方がいる中、あからさまな態度は取れない。

受け取ってその場をやり過ごしたけど、どうたものかと頭を悩ませた。

柚木先輩の紹介である手前、完全にスルーは出来ないし……。

というか…ご結婚とかされていたらどうしよう。

懇親会中、全くそういった話題にならなかったのを今思い出した。

奥様がいらっしゃるとしたら、面倒なことに巻き込まれるのだけはごめんだ。

男女のいざこざは職場でも何度も目にしている。

今まで救命センターが修羅場と化した場面に幾度遭遇したことか。

頭を左右に振って一旦この件は忘れようと手にしていた名刺を上着のポケットへ仕舞い込んだ。

明日の出勤時間は夕方から。

今日帰ってから家のことやって明日に備えよう。

あ、成瀬先生に今日の資料お貸しする話だったな…忘れずに持っていかなきゃ。

駅へ向かう夜道。

明日の予定を確認しながら歩みを進めていると、私の視線は“何か”を捉えた。

徐々に目を凝らすとそれは道端で蹲る人だった。

「どうしました？大丈夫ですか？」

慌てて近づいてみると、蹲っていたのは中年男性で、眉間に皺を寄せてうぅ、いたた…と呻き声を上げている。

「どこか痛みますか？」

「…こ、せなか…こし…」

私の声がけに男性は自らの手を背部へゆっくりと動かし、痛むと言う部分を触れて摩る動作をした。