燈 (ページ25)

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命の恩人-3 ページ25

だから俺にとってA先生は、ただの元主治医じゃ無い。

命を救ってもらってからいつも何処かあの日、あの時に先生が言った言葉をずっと信じている自分が間違いなく居た。

今日偶然とはいえA先生に会って、先生が俺のことを覚えていてくれてたと知って、俺の気持ちは一方的じゃなかったことが知れた。

それは素直に嬉しいと感じたことだった。

でも、今俺が何をして生きているか、A先生のあの真っ直ぐな目を向けられたら素直に答えられないかも知れない。

先生もまさか、俺が今復讐のために詐欺師として生きているとは思っていないんじゃないかな。

あの時、非常用外階段で先生に言いかけて濁した言葉はこのこと。

生きる理由が復讐のためだとしても、先生は俺を止めずに思っていて欲しい。

A先生の願い通り生きる代わりに、俺も先生にそんなお願いを口にしようとしていた。

まあ、結局伝えそびれて今日まで来てしまったけどね。

それに加えて、仕事相手は害の無い一般人であることの方が少ない。

時には依頼に対してこの命を賭けることもある。

…こんなこと、A先生が知ったら身を危険にさらしてるって怒るかな？

「…何ぼーっとしてんのよ、新しい仕事よ」

どうやらカウンター内の方付けが済んだ早瀬さんは、俺のスマートフォンを一瞥してから話掛けてきた。

開いていたゲームは敵に殲滅されゲームオーバーになっていて、コンテニュー選択画面のまま。

早瀬さんの言う通り、過去の記憶に浸り過ぎてぼーっとしていたらしい。

手元のスマートフォンのゲームアプリを閉じて切り替えると、俺は彼女の方へ向き直る。

「はいはい。で、どんな奴？」

そう言うと、彼女はいつもの黒色のタブレット端末を静かに差し出した。