燈 (ページ20)

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枷言葉-2 ページ20

「君が抱えてる気持ち、当事者じゃない私が推し量るには限界がある。でも、自分の手で救った命を目の前で失うなんて、そんな哀しいことない…！」

立場的にも倫理観的にも自ら命を断つことを肯定は出来ないし、しない。

私の思い、彼に届くだろうか分からないけど、とにかく必死に話し掛け続けて訴える。

「…こんなのエゴだって分かってる…私が君を生かしたの。君の命を助けた人間のひとりとしてのお願い。お願いだから、生きて…生きる希望を持ちなさいなんて言わないから…」

そこまで言うとついに私の思いが届いたのか、諦めたのか。

彼は動きを止め、その場にしゃがみ込むと柵に寄りかかるように座り直した。

私は彼と向かい合うように座る。

「親父にさ、刺される夢…ずっと見んだよね。逃れたいのに逃れられなくて、瞼にその時の光景が焼きついてる…」

その内生きる意味も分からなくなってきて、こんなにただ苦しいのならいっそ死んだ方がマシ。

そう思って非常用外階段に足を運んだのだと彼は話してくれた。

私は黙って彼の言葉に耳を傾ける。

これは恐らく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)。

事件当時の記憶がふとした瞬間にフラッシュバックしたり、眠っている時に当時の光景が夢にそのまま反映されたりする、トラウマによって引き起こされる精神疾患。

聞けば、入院してからこの話をしたのは私が初めてだと言う。

彼、怪我を負った経緯も経緯だし…大人に対して不信感でも抱いていたのかも知れない。

それで誰にも言えなかったのかな。

ずっと悩まされていたにも関わらず、誰にも相談も出来ずに苦しんでいたのかと思うと胸が締め付けられた。

命を助けたあの後、ずっと側で、何なら一番近くで彼を見守って居たのに…。

自分を悔やむ気持ちに加えて彼の気持ちに寄り添ったら、自然と涙が溢れ頬を伝い、自分の膝元をパタパタと濡らした。