偽りの暇乞 ページ8
≫A side
アイツが私を見つけてここに現れて、もしかしてずっと様子を見ていた…？
カイちゃんが読み上げた内容は、私に向けての言葉。
そして私の脳裏に浮かぶのは、大切な人が傷付けられたあの日の記憶。
ドッドッ、と胸の内で拳程の大きさの臓器は尚も跳ね続ける。
…また同じことが起きる？
今度は…カイちゃんにも？
いや…そんなのあってはならない、絶対に。
駄目だ、巻き込んじゃ駄目。
アイツが私の元に再び現れて、1番に恐れていることは身の回りの人に迷惑を掛けてしまうこと。
…離れよう、彼を守るために。
最善の策は定まっていない。
それでも雑然とした頭の中で一先ず彼に伝えなくてはと、顔を上げた私は心配そうに覗き込むカイちゃんの目を見る。
「カイちゃん…」
「ん？」
「会うの…今日で最後にしよ」
若干に戦慄く声で彼に伝えれば、当たり前に急な事で驚いた反応を見せた。
「なんで…？なんでそんな急に、訳分かんないんだけど？」
…ごめんね。
「やっぱり、カイちゃんとは友達にはなれない」
「っ、いやどういうこと？そんな…」
ごめん。
「仲良くしたいって言ってくれたの…凄く嬉しかった」
この言葉は、嘘じゃ無い。
「Aさん、」
「ごめん」
「待って、ねえ」
「ごめんなさい」
俯き謝る私にカイちゃんは声を掛け続けるけれど、伝えたい事を伝えた私はこれ以上の話を拒んだつもりだった。
自分でもかなり身勝手とは思う。
いっそ最低な人だと嫌ってくれれば良いのに、それなのに…。
「俺のこと見て」
そのひと声。
彼の真剣な声色に、ゆっくりとだが思わず顔を上げてしまう。
目の前にはあの夜と同じ、くっきりとした二重の大きなアーモンドアイ。
その瞳の中に私の姿が反射して映っていた。
カイちゃんは続ける。
「俺が助けた…あの日の夜の不審者と関係あるの？」
何も話さない私に対して容赦無く核心を突くカイちゃん。
私は思わず分かりやすく眉を顰めてしまう。
…でも、だ。
意味の分からない“ピンク色の便箋”と明らかに様子のおかしい私。
それからあの夜の出来事と。
それらが揃えば関係性が有るのではと思うのは仕方無いのかも。
不自然では無い。
あくまでも私の見立てでは有るけれど…彼の言う通り関係あるとは思う。
ああ、何処まで話すべきだろう。
そんな事頭の片隅で考えながら、私は一先ずカイちゃんの問い掛けに対して肯定の意で小さく頷いたのだった。
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作者名：千草 | 作成日時：2024年3月2日 18時
