心像 ページ4
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手元のカメラの小さなモニターに視線を落とすAさん。
そんな彼女に構わず俺は言葉を続ける。
「本当だって、俺見てて分かるんだよ。Aさんも踊ってて“お客さん見えてる”んでしょ？」
問い掛けに、Aさんは首を傾げた。
「んー…でも想像ですよ、沢山の人に見られてたらって…烏滸がましいですよね」
Aさんが踊りながら見ている景色…つまりは想像を気が付かれたことに、彼女は“恥ずかしいな”なんて照れ笑いする。
そうじゃ無い、多分勘違いしている。
「違うって」
俺がそう言うと、ピタリとAさんは動きを止めて俺の目を見た。
紫黒色のその瞳と目が合う。
スタジオの照明の光を瞳が拾って、キラキラとまるで星空のようだった。
別に揶揄おうと思って俺もそんなこと言ったわけじゃ無い。
烏滸がましくも何とも無い。
相手を想像をして考えて、自分を魅せるって凄いことなんだよって。
そう伝えればAさんはその瞳を丸くして瞬かせて。
「…ありがとう、カイちゃん。そんな風に見えていたんだね」
俺の言葉に対する感謝と、それから苦笑いっていうやつをAさんはした。
何で“その表情”…？
…いや、その困った笑顔には理由がきっとある。
Aさん…ねえ、そうでしょ？
口にはしない問い掛け。
踏み込みたくて、でも踏み込めないもどかしさに僅かに唇を咬む。
俺のそんな思いなんてAさんは知らない。
彼女は手に持っていたカメラに再び視線を落としていて、そして暫くしてパッと顔を上げた。
撮影した動画を見返して納得いかなかった部分が有ったらしい。
「カイちゃん、ごめんなさいもう一回だけ撮って良いですか？」
そう言って俺にもう一度撮影と音楽の再生をお願いをする。
「うん、いいよ」
「有難う御座います…これで完璧に決めるので」
カメラを三脚に乗せ直して、立ち位置へ向かう彼女の背中。
ああ、まただ。
俺の記憶の中の、当時のあの子の姿が、Aさんの姿に重なる。
「……Aちゃん」
気持ちが胸の奥で燻るばかり。
視線の先の背中に向かってあの子の名前を呼び掛けた。
それも小さな小さな囁き声で。
当たり前だけど返事なんて返って来ない。
くるりとこちらに振り返ったAさんは、スタンバイOKの合図を俺に送る。
カメラの録画開始をして、“いくよ”と声を掛けスマートフォンからは音楽を再生した。
Take2が今始まる。
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作者名：千草 | 作成日時：2024年3月2日 18時
