心の傷 ページ14
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「寒い日だった」
当時を思い返しながら、遠い目をして俺に話すAちゃん。
「東京にも雪が降って積もって…そんな日に私は初めて“熱心なファン”と顔を合わせた」
当時のマネージャーさんと現場に向かう車に乗っていると、マネージャーさんが車から離れた隙を狙ってか見知らぬ男性がAちゃんの乗る座席のドアを外から開けたらしい。
「御託並べて脅しにカッターナイフ差し向けて…怖くて固まってたらマネージャーさんが戻って来て」
Aちゃんを守ろうと、距離を取らせようと、“離れなさい”と声を掛けながら、マネージャーさんはその男性に向かって行った。
そして、その脅しのカッターナイフはただの脅しで済まずに…マネージャーさんを傷付ける結果を招く。
「…それで、マネージャーさんは、」
そこまで話を聞いて、恐る恐る怪我をしたマネージャーさんがどうなってしまったのか気になって口を出す。
「幸い命に関わる怪我には…」
気が付けば彼女の話にのめり込んでいた俺。
それでいてまさかAちゃんが、そんな過激なファンによる所謂付き纏いの被害に合っていたなんて…。
想像も付かなかった事実に驚きと恐さと、それからその当時の事に今も彼女は苦しめられていると考えると、俺の胸にも心苦しさが湧く。
「周りの大人達は必死に私を守ってくれた。けれど、守ってもらうばかりで…私は何も出来なくて」
「…でも、Aちゃんだって子供で…それは守られて当然の立場じゃん」
「そうなんだけれど…やっぱり何も出来ないの、悔しくない…？仕方なかったって思えなかったの」
Aちゃんの表情は依然として暗い。
「怪我させたアイツも捕まって、結果として傷害罪で2年の懲役。でもね、私にしたら…“大切な人が傷付けられてたったの2年”…だった」
そして眉間に皺を寄せて嫌悪の表情のままに、Aちゃんは言葉を続ける。
「捕まって刑務所入っても、また時が経てば相手は塀の外に出て来る。次にアイツが何もしてくるか、また大切な人が傷付けられる位なら…って考えた」
「…その結果が、芸能界からの引退だったんだ」
Aちゃんは俺の言葉に深く頷く。
彼女の想像するところ、理解は出来た。
“また”同じことが起きるかも知れない。
立場上から、きっと先ず犠牲になるのは自分の事を守ろうと動いてくれる周りの大人達だからだ。
彼女は、Aちゃんは、それを恐れていた。
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作者名：千草 | 作成日時：2024年3月2日 18時
