推しの推し2 (ページ11)

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已む無しページ11

≫A side

僅かな沈黙の間を置いて、目の前の彼が動く気配を感じた。

そして、膝を抱える私のその手の甲に温かい何かが触れる。

「俺は大丈夫だから、顔上げてよ」

更に降ってくるカイちゃんの声に恐る恐る面を上げる。

視界に入ったカイちゃんは、私に微笑み掛けながら自身の右手を私の方へと伸ばしていたのだ。

膝を抱える私の右手に温かさを感じたのは、カイちゃんが上から手を重ねていたからだった。

「…何か分かったというか合点いったというか。全部理由があるんでしょ？」

手を重ねたままに、カイちゃんは私に面と向かって話を続ける。

「たださ…俺、仲良くしたかったのは本当。それは例えAさんだとしてもAちゃんだとしても…」

水に溶いた水彩絵具をぱたり、とスケッチブックに落とした時の様に。

紡がれた言葉のその色彩は滲んで広がって、じわりと胸に沁み落ちた。

もう過去のような出来事は真っ平ごめんだと言うのに…。

彼の口にする言葉によって胸の奥に感じる、胸の温かみのそれが余計に辛い。

そんな嬉しい言葉並べられたら、一方的に突き放せなくなってしまう。

「“AA”であることがバレたら…やっぱり一緒には過ごせない？」

再びの彼からの問い掛けに、私は口を閉ざしたまま。

私の“秘密”に関して知りたいと触れてこようとしない辺り、ただ只管に関係性を築きたいと言うカイちゃんの思いも多分本物。

正体が知れていないのならまだ白を切れた。

でもバレてしまったのなら…もう隠す理由はほぼ無いのかも知れない。

寧ろ、全て一度開示してその上で、身の危険がある事を説明した方が分かってくれるのかも。

まあまあに不本意ながら、已むを得ないと私は真実を明かす覚悟を決め深呼吸をする。

「それを決める前に…カイちゃんの知らない、“AA”の話をしていいかな」

そう切り出せば、無言のまま深く頷くカイちゃん。

他言無用を釘刺すと、彼は背筋をシャンと伸ばした。

…さあ、昔話をしよう。