推しの推し (ページ10)

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憧憬ページ10

≫髙橋 side

四角い画面の向こう側。

カラフルなスタジオセット。

カラフルなコスチューム。

キラキラの瞳。

見る者を虜にする、キラキラと輝く笑顔。

『みんなー！今日も一緒に、うたっておどろうね！』

当時小学生だった俺の心を奪ったのは、そんな輝かしい世界で眩しい笑顔を振り撒く、同い年くらいの女の子だった。

今で言う“推し”ってやつかも知れない。

俺自身も縁あって同じように芸能の世界に足を踏み入れた。

勿論自分で決めた道ではあるし、先輩達のように名の知れたアーティスト、タレントにいつかなれたらなって思っていた。

そしたら…いつか“ニコちゃん”に会えるかな、なんて。

ほーんのちょっとだけ期待もしてたりして…。

でも、俺のそんな期待も割とすぐ崩れちゃった。

というのも…俺の推し、“ニコちゃん”。

基、“AA”ちゃんは、俺がこの世界に入る前に引退してしまっていたから。

それを知ったのは俺が今所属している事務所に入所してから1年経ってからだった。

とある週刊誌の記事。

『AA 人気絶頂の中、密かに引退』と見出しを掲げられ、記事の発表タイミングとしても“漸く公に出来た”という感じが取れる不自然さ。

“うたっておどろう！”が終わってしまった理由も、AAちゃんの引退があったからのようだった。

俺の記憶では“うたっておどろう！”の最終回でも彼女の卒業や引退にも触れず、簡素なテロップで最終回であることを伝えたのみ。

番組終了はきっと制作側の都合だと当時は思っていた。

だから、またどこかで活躍が見られると思っていたし、それを楽しみにしていた。

まさか芸能の世界から身を引いてしまったなんて。

当然の事ながらショックを受けた俺。

けど、その週刊誌の記事によれば“進学を控えていたから”、“将来を身据えて”と書いてあった。

本人の意向なら仕方ない。

表舞台から去ってしまった事は残念だし、今どこで何をしているかなんて全く分からないけれど…。

きっと今日もどこかで、Aちゃんは元気にしていてくれてる。

そう信じて、俺は彼女の幸せを密かに願っていた。