危殆 ページ9
≫A side
友人と落ち合う約束をしたある夜。
大通りから脇道に入ったところで私は彼女の迎えを待っていた。
手にしていたスマートフォンで友人に居場所をメッセージで送信した直後の事。
突如としてぬっと頭上に黒い影が掛かる。
一体何かと顔を上げた瞬間、私は息を呑んだ。
目の前には1人の男性。
ギョロリと二つの目玉が獲物を捕らえたと言わんばかりにじぃっと私の事を凝視していた。
「ニコちゃん、やっと見つけた」
ニタァ、と大口開けて笑みを見せる目の前の男性。
誰…？
知らない、誰？
誰誰誰誰。
なんで私が“ニコちゃん”だったこと知ってるの…？
ドクドクと心臓は跳ねているし、息をすることを忘れるくらい頭の中はもうパニック。
ただ“何か危険”と言うのは本能的な私の何かで察知しているのに、まるで私とその男性との間の時間が止まったよう。
ハッキリと声も出せず身動きも取れずにいた。
「ニコちゃんここで何してるの？1人なの？」
「…あ……ちが、」
「大きくなったねえ。ずっと寂しかったよ」
ここで漸く思い出した自分の過去。
まさかのまさか、目の前の男性は、あの時私を引退へ追い込んだ…ストーカーなんじゃ無いかって。
「ほら、一緒に行こう…？」
目の前に男性の手が伸びる。
怖い、嫌だ、やめて。
そう身を固めた時だった。
ーードカッ
重く鈍い衝撃音と共に、不審者は目の前を転がって“いてぇ”と呻き声を上げた。
一体何が？
一体誰が？
状況の整理もつかない内に、私の前に立ち塞がる様にして背を向ける1人の青年。
もしかして、この人が私を助けてくれた…？
心無しか見たことのある様なその背中をぼうっと見つめていると、その青年はほんの僅かにチラッと私のいる背に視線を向けて、“行こ”と短く台詞を吐いた。
同時に私の右手を取って走り出す青年。
私は手を引かれるまま、縺れる脚を必死に何とか動かして彼に付いて走った。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
