推しの推し (ページ7)

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むかしばなしページ7

≫A side

四角い画面の向こう側の世界。

カラフルなスタジオセット。

カラフルなコスチューム。

キラキラの照明。

そして、魅せるは飛び切りの笑顔。

「みんなー！今日も一緒に、うたっておどろうね！」

自分よりもずっと大きなテレビカメラ。

私の姿を捕らえるそのレンズに向かって、今日も私は呼び掛ける。

「それではっ、ミュージック、スタートぉ！」

掛け声に合わせて番組テーマソングのイントロが流れ出し、私はいつものように踊り慣れたステップと振りで曲に合わせて身体を動かす。

子供向け番組、“うたっておどろう！”。

その番組内のメインキャラクターである“ニコちゃん”を演じるのはこの私、AAだ。

あまり私自身記憶に無い、3歳になった頃。

両親の意向でこの世界…つまりは芸能界に足を踏み入れ、有難いことにお仕事を頂けた私は“子役”としてキャリアを積んで来た。

今年で15歳。

“進学を機に”とこの世界を引退する。

……表向き、は。

私が引退するにあたって、仕事の調整がなされた。

AAの名を世に知らしめてくれた、この“うたっておどろう！”も私が引退するのならば、と後続の演者を迎える事なく引退に合わせて番組を閉じるらしい。

私は演じることも、歌うことも踊ることも、何かを自分で表現する事が好きだった。

だから、この世界を離れることは…少し寂しいと感じる。

でも、この決断は自分の身を守る為でもあるのだ。

「身や心を犠牲にしてまでこの世界に留まって欲しくは無い」と両親に言われてしまえば、私はその言葉を受け止めるしかない。

私はまだ“子供”だから。

恐ろしいストーカー犯から身を守るには、周りの大人達を頼って護ってもらうしかなかったのだった。