優越感 ページ38
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スロースタートで始まったこの会は、約2時間で幕引きとなった。
帰りのタクシー。
覚束無い足取りのレンを運転席後ろ側に詰め込んで、俺、Aさん、3人後部座席に収まった。
レンはタクシーが発進するなりスースーと寝息を立て始める。
ふと手に持つスマートフォンが振動して、画面に視線を落とすと、SNSから“タグ付けされました”って通知。
タップしてそのままアプリを開くと、それは昼間に会っていたMobuoの投稿だった。
「Mobuoもう今日の写真投稿してる。見てAさん」
「わ…本当だ、」
昼間のオフ会？の写真。
Mobuoとのだけじゃ無くてAさんも入った3人の写真も何枚か撮った。
よっぽど今日Aさんに会えたの嬉しかったらしい。
俺とのツーショットじゃなくて、彼女を含めたスリーショットをトップに何枚かまとめて投稿されていた。
“また集まろうぜ！”なんてコメント付けて。
「カイちゃん…今日はほぼ丸一日、有難うございました。凄く楽しかったです」
「いや、全然！てかこちらこそだよ、今日はありがと」
急な誘いだったのに、しかもレン連れて来て驚かせちゃった。
帰ることにはまあまあ打ち解けていたけれど、ちょっと悪かったなって思っていたから。
だから、彼女から“凄く楽しかった”と一言聞けて俺も凄く安心した。
「あの…カイちゃん、聞いていいですか」
改まって俺に訊ねようとするAさんにどうしたのかと声掛ければ、今日一日Aさんのことを徹底して“ただの社会人”さんと呼んでいたことが気になったらしい。
「今日…私の名前呼ばなかったのは、」
「…いや…だって俺がAさんの名前をMobuoやレンに教えるのは違うでしょ？」
言葉の通り、彼女の口からじゃなく俺から人に教えるのは違うと思う。
「Aさんも俺に名前教えてくれる時ちょっと躊躇っていたし、と思って」
俺は、俺が知りたくて訊ねた。
まあ、誘導尋問的に彼女の呼び名を聞き出したようなものかもだけれど…隠し事が多い彼女が名を明かしてくれたのだ。
この事実が、ごく僅かな人間しか知り得ない彼女のことを知れたという優越感に俺を浸らせるなんてこと、彼女は知りもしないだろう。
「…有難う、ございます。カイちゃんのそういった気遣いに凄く救われます」
Aさんは俺の言葉を受けて、それは嬉しそうに目を細めた。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
