推しの推し (ページ36)

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改めましてページ36

≫永瀬 side

「…永瀬レン。知っとると思うけど、宜しく」

意地張っててもしゃあない。

自己紹介もまだだったのを思い出して、俺は既に知っとるだろう自分の名前を口にした。

すると彼女は伏せがちだった瞳を瞬かせて微かに笑む。

「こちらこそ改めて…“ただの社会人”という活動名で動画投稿している者です。宜しくお願い致します」

俺の自己紹介に対して彼女もまた改めて自分のことを紹介してくれた。

確かにまだまだ謎は多い子やけど、キチンとした子やん。

その謎めいた感じが余計にカイトを惹きつけたんやろな。

俺も…例外無く。

100%気を許した訳や無い。

けど…今夜は一先ずええか、なんて。

俺はハイボールのグラスを手にすると、グッと煽って飲み干した。

「お酒…結構呑まれるんでしたよね」

「ん…まあ、人並みにやけど」

「ただの社会人さんは？今日…まだアルコール頼んで無いけど」

カイトが彼女の様子を窺ってそう訊ねる。

確かに頼んで飲んでいるのは烏龍茶だ。

「アルコール駄目な体質みたいで…呑めないんですよね」

「あ、そっかあ…それはしょうがない」

「折角のこういった場で…すみません」

「謝らんでええよ、体質ならしゃあないやろ」

「そうそ、俺らのよく知る仲間にも全然呑めない人いるから、ぜんっぜん気にしなくて大丈夫」

身近にお酒が呑めん…ショウとか、きっさんもあんま呑めんし。

彼女はこういった席でお酒が呑めんことを申し訳なく思っているようやけど、カイトの言う通り俺らの周りにお酒駄目な奴がおるからあんまし気にならん。

「その代わりやないけど、食べたいもん今日は沢山食べていき。カイトの奢りやし」

俺はこの流れで少しでも場の雰囲気を和らげようと冗談を口にした。

カイトは“そんな話してないしてない”って俺のこと小突いてくる。

狙い通り緊張感を解くことが出来たらしい。

俺らを見てただの社会人さんは声を微かに漏らして笑ってくれたのだった。