推しの推し (ページ34)

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いきさつページ34

≫A side

“あ、いえ…お気になさらず…”と、他人行儀な返事をぽそり溢して私は再び黙る。

そんな私を見てレンくんは、“はぁ〜…”と深く溜息を溢すと徐に口を開いたのだ。

「…なんかウチのカイトがお世話になったみたいで」

「え？何その切り込み方」

「ちょお、カイト静かにして」

警戒は決して緩みきっていないレンくんは、多分私と会話をしてくれようとしている。

でもカイちゃんがツッコんだように、切り込み方が分からなかったんだと思う。

多分…本当に私とカイちゃんの関係性が分からないんだ。

さっきの2人の会話からは何となく推測することしか出来ないけれど…私のことを“何か”判断しようとしているなら、きちんと経緯を説明するべきなのかもしれない。

「…あの…お世話になったのはこちらの方で」

私はカイちゃんに助けてもらった、あの日の夜の話をレンくんに向けて話す。

そして私が動画投稿主であることにカイちゃんが気が付いて、後日お心寄せの言葉をメールで頂いたこと。

私的事項であるが彼のファンであること。

それらをきっかけに交流する機会を頂いたこと。

包み隠さず正直に話した。

「不審者…って大丈夫なん？」

それは、素直に心配をする一言で驚いた。

いや、“驚いた”とはレンくんに対して失礼かも知れない。

けれどレンくんにとってここで重要なのは、“私が何者でどういう経緯でカイちゃんと繋がったのか”ということかと。

だから私自身に対して降り掛かった身の危険について、心を寄せてくれるとは思わなかった。

「それ、警察は行ったん？」

「あ…いえ、行っていないです…大丈夫なので」

「大丈夫って…何で？」

レンくんに問われて私は言葉詰まる。

その不審者、“心当たりが無いことは無い”とは言えない。

「ええと…事情があって、」

「…事情、ふーん…ま、俺に話せるに値する信頼は無いよな」

「あ、いえその…決してそういうつもりじゃ」

「いやええて、今日会ったばっかしやん。すんません、俺が聞いたん忘れて」

手をヒラヒラと左右に振って、その“忘れて”のジェスチャーをするレンくん。

彼の言う通り、“今日初めまして”で開示する話でも無いのかも知れない。

私が口籠ったのを見て、レンくんは自ら察して話を閉じようとしてくれた。

でも…そもそもは心配が故の問い掛けだったろう。

それが分かっているからこそ彼の心寄せを無下にしてしまった様な、そんな苦い気持ちが胸に残った。