推しの推し (ページ33)

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まるで猫に会った鼠ページ33

≫A side

「こ、んばんは、お誘い頂いて…」

個室に入ってきた人物が誰であるかも良く確認しないまま、私はカイちゃんであると思い込んでいた。

頭を下げていると、その人は私に向かって声を落とす。

「…え、だれ？」

ハッとして、面を上げた。

カイちゃんではない声だと思えば、やはり別人で…その人の顔を見て息を呑んだのだった。

「ちょっと、何でレン先行くの…って、あ！先着いてたんだ」

“ごめんなさい、待った？”なんてニコニコ話しかけて来るのは先程振りのカイちゃん。

それよりも、それよりもなんだよ。

いの一番に私が思い込みで声を掛けたのはレンくんだったのだ。

「あ…初め、まして…」

何とか声を出して挨拶をしてみるも視線が怖い。

目の前に居るのは“アイドルの永瀬レン”では無くて、“完全プライベートの永瀬レン”だ。

分かりやすく“警戒”の文字が顔に浮かんでいて、私の挨拶は先ずスルー。

「カイト俺、他に人居るなんて聞いてなかったんやけど」

「え、ごめん。伝えたら絶対来ない気がしたからさあ。取り敢えず座ろ？はい、レン奥詰めて」

カイちゃんは一先ずレンくんに座るように促して、立ったままの私にも同じ様に促した。

皆腰を落ち着けた所で一先ず飲み物を頼み、そうして漸くカイちゃんは私のことをレンくんに紹介をする。

「レン、こちらただの社会人さん。俺らの曲のダンスカバーして話題になってたの覚えてる？」

紹介に合わせて彼が私の方にチラッと視線を向けたから、ぺこりと頭を下げた。

「…その人が何でここにおるん？」

レンくんのストレートな物言いにドキ、とする。

カイちゃんとは色々と偶然が重なった上での出会いではあるのだけれど、事情を知らなければ当然の反応。

ここは私がキチンと説明すべきか…と迷っている最中、カイちゃんがすかさず答えた。

「この間の“都合付けるの人”！」

…“都合付けるの人”とは…？

あれ…なんかよく分からないけれど、それでレンくんには何か伝わったらしい。

「え、まさかあの時の？はあ…？益々分からん」

「レンに言われて考えたけどさ、やっぱ会ってもらうのが手っ取り早いじゃんと思って」

「あのさあ、こっちの話を目の前でする普通？ほら、何の話って顔しとるやん」

置いて行かれていたのは勿論だけれども。

目の前の2人だけのやり取りかと思って気を抜いていた。

思い切りこちらに、しかもレンくんが急に振って来たので私の気は焦った。