カイロスの前髪 ページ28
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新着動画の通知が世間を再び騒がす。
一件で私自身の認知度も上がっていたので再び注目の的となったのだ。
双方のファン同士からは“これは実質的なコラボ動画”と言われ、大方肯定的な反応が動画のコメントやSNSを通じて知れた。
しかし極一部ファンからは否定的な声もちらほら。
やはりそういう声は目につきやすい。
“売名もいいところ”、“調子に乗り過ぎ”、“踊ってって頼み込んだらしいよ”。
経歴不明で一体何者と一層のこと騒つかせるのは当然かも知れない。
事実で無い事でさえ当たり前に書き込まれている。
それでも今、私がそれらを否定する言葉を発信してもこの場合あまり意味は無さそう。
むしろ下手したら火に油を注ぐようなものかも。
「Aさん、これ見た？」
同じ部署の1年先輩。
私がカイちゃんのファンである事を知っているその先輩は、仕事の合間に私の振りで踊ったカイちゃんの動画を示してきた。
「この間のと言い、一体何者なんだろうね…気にならない？」
「…まあ、そうですね」
「特定とかその内する人とか出てきそうよね」
「と、特定…それはちょっと怖い、かも」
先輩の一言に胃がギュッと掴まれた。
つい本音が漏れて、まるで私が本人であるかのような反応をしてしまったけれど、先輩は深く気に留めなかったのは幸い。
特定…また厄介な問題。
暫くまた身の警戒を高めて、動画とSNSの投稿頻度も少し下げよう。
恰もプライベートが忙しいのを装って。
***
それからひと月程経った頃。
特にやり取りもなく過ごしていた所にカイちゃんからメールが届いた。
勿論、個人的な連絡先は教えていない。
変わらず開放しているあのアドレス宛に送られてきたのだ。
展開すれば先ず目に飛び込んだのは、この間の振り確認のお礼の言葉。
諸々の更新頻度が下がったからか、変わりないか気に掛ける言葉もある。
それから続けて月末某日の予定を伺う文面。
一般にも名が知れているダンサーさんと会う約束をしており、私も顔を出さないかという誘いだった。
どうやら、あの【踊ってみた】から私に興味がある、と。
私もそのダンサーさんの名は知っているが面識は一度も無い。
偶々と言えどカイちゃんが繋いでくれたご縁。
私1人で活動していても、こんなチャンスまたと無いだろう。
お会い出来るなら光栄なことこの上ない。
私は連絡を頂いた礼とお誘いの返事を打ち込んだ。
“某日、都合付けます”、と。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
