吐露 ページ27
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パチクリという擬音語が正に当てはまるように、彼女のその魅力的な瞳が瞬いた。
それからマスクの下の彼女の顔付きは硬く、やや不審がるような険しいものになって、慌てて俺は言葉を紡ぐ。
「あの夜…電話してたじゃないすか、それで俺電話の向こうの人の声聞こえちゃって」
ふと、彼女は俺の言葉に当時を思い出すような、思考を巡らすような。
ちょっぴり険しくなった顔付きのまま、俺に聞き返した。
「名前…ですか？」
「あ…そう、そう名前」
彼女が口にした言葉を肯定するように、態とらしく大きく頷いた。
正にその通り、聞こえてしまった“A”と言う彼女の名前らしき単語。
あの場では敢えて訊ねることでも無いし聞き流したけれど、やっぱり妙に胸が騒ついて。
俺の胸に感じていたことを素直に吐いた。
「で、本名だろうなって思いつつちょっと今日までモヤモヤしてたっていう」
いや……“モヤモヤ晴らす為”、だけ…？
自分で口にしておいて、その言葉に違和感を感じる。
…多分それだけじゃ無い。
俺は気が付けば画面の向こうでダンスを披露する彼女に興味が湧いていたんだ。
興味が向いているところで、ニコちゃんと同じ名前と来た。
訂正。俺は言葉を足した。
「あ、モヤモヤしてて確認したいってのはベースであったんですけど、さっき俺が“寂しい”って言ったのは嘘じゃないす。Aさんと…仲良くしたいし」
俺は、彼女のこと…Aさんのこと、知りたいんだ。
違和感の原因はその気持ち、その欲にあるのかも知れない。
そしてそれらに拍車が掛かっていることは違い無かった。
俺の言葉に驚いたようにその丸い瞳を更に丸くさせていた目の前の彼女。
フゥ、とまるで心を落ち着かせるように胸に左手を当て深く息を一度吐く。
そしてゆっくりと当時のことを口にしたのだ。
「…確かにあの時、思い返せば電話の相手が大きな声を上げていたかも知れないです」
つまりは彼女も“思えば”と、俺に電話の向こうの声が聞こえてしまったことに納得いったらしい。
もうそこには俺に対して不審がる険しい表情は無い。
「仲良くしたいなんて、嬉しいです。宜しくお願いします…カイちゃん」
少し照れたように俺の名前を呼ぶ彼女は、目元を細めてマスク越しに微笑んだのだった。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
