“Oshiete” ページ26
≫A side
「はい！その前に」
ピシッと右手を挙げて、まるで子供が質疑の為に挙手をするかのように私の目の前に立つカイちゃん。
私は黙って彼の言葉を待つと、にっこり彼は笑むのだ。
「改めて自己紹介しても良いですか、先生？」
せ、先生…？
驚いて目を丸くする私に、カイちゃんは続ける。
「�盒競�イトです、宜しくお願いします」
ぺこり、と頭を下げる彼に私もつられて頭をぺこりと下げた。
「あの別に嫌じゃなきゃですけど、俺のことは何でも“タカハシ”でも“カイト”でも」
「いや…呼び捨ては恐れ多いですよ、」
幾らなんでも呼び捨てはハードルが高すぎるから、そう彼の提案をやんわり否定すると“普段は何て呼んでいるの？”と聞かれてしまう。
え、待って…公開処刑じゃ無いけれど、本人前にして普段の呼称明かすって、恥ずかしさ極りなくない…？
「か、カイちゃん…と」
黙ったままでいる訳にも行かず、仕方なく普段の呼び方を伝えれば、“じゃあそれで、普段通りに”とカイちゃんは言った。
「俺はなんて呼んだらオッケーですか？」
「えっ、ああ…えーと…」
彼のその言葉に私は名乗るのを躊躇した。
友人の忠告が過ったから。
別に…彼が、カイちゃんが私の名前を知ったところで、だとは思うけれど。
公表を控える理由というか、真の事情を知る者は限られている。
警戒しておくには越した事は無いし、安易に広めるものでも無い…よね。
私は渋りながら彼に言う、“活動名でいいですよ”と。
するとカイちゃんは私の言葉に“ええ？”と驚きの声を上げた。
「“ただの社会人”さんって？正直ちょっと呼び辛いし…折角歳近いのに寂しいなぁ…なんて」
あ…また彼のペースに呑まれている気がする。
じぃ…と、私を虜にするその瞳を向けられて、その言葉に乗じて切なさを感じさせる笑顔に迫られて。
いよいよ私は拒めない。
「………A、と言います」
言うか言うまいかの選択を迫られた私は、蚊の鳴くような細い細い声で答えた。
聞き取れているかどうかの声の大きさ。
でもそんな心配は杞憂で、カイちゃんを見れば先程の切なさを含んだ笑みは何処へやら。
「Aさん…！やっぱり、Aさんって言うんすね！いや、あの先ず教えてくれてありがとうございます」
教えたお礼さて置き、“やっぱり”…？とはどう言う事だろうか。
疑問符頭の上に羅列して、私は彼に向かって瞳を瞬かせたのだった。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
