推しの推し (ページ17)

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≠運命ページ17

≫A side

こんな事ある…？

あの青年は、彼は、

ーーー髙橋カイトくんだ。

迎えに現れた友人の車に乗り込み、ここまでの一連の流れを1人回想して浸る。

妙に大人しく黙る私を気にする素振り無く、友人は先程から説教混じりにすぐに連絡を寄越さなかった事を色々と口にしている。

私の耳には彼女の文言内容が入ってこない。

思考は先程まで一緒にいた青年についてで回っているから。

接触があった時に何と無く体格背格好、いつも目にしている彼に似ているなと思ってはいた。

けれど、確信を持ったタイミングはやはり、辿り着いた公園で彼の瞳をしっかりとこの目で捕えた時だ。

一先ず怪我が無いか心配になって、そっと声を掛けた。

それから怪我が無いこと確認して、お礼を言ったんだ…で、“ただの社会人”であることがバレた。

態々私がそれを隠す理由も無くて、途轍もなくぎこちない返事をした気がする。

カイちゃんも自分のこと明かす事なく、“一視聴者”として話を広げるものだから…完全にペースを持ってかれて聞かれた事には全て答えていた。

目の前に現れた推し、さっきまでの恐怖は何処へやら。

まさに私の中では良識と欲とが闘っていたのだけれど、
最後の最後、気を遣ったつもりのこの口が、滑った。

いや、プライベートだってのは分かっていて、最後まで気が付いたことに触れてはならないと思っていた。

一応でも過去に芸能の世界に居た人間として、プライベートが如何に本人にとって大事かは理解しているつもりだったのに。

しかも…相手は自分の推し。

咄嗟に背を向けて、なんて無い風に車に乗り込んだけれど、“やってしまった…！”と感じた私の心臓はドキドキと音を立てていた。

何でどうして、こんなトラブルに限ってカイちゃんが…。

もっと普通に街中で会えていたなら良かったなんて思ってしまう。

不審者にビビって動けない所を見られた挙句、彼に引き摺られるように走った。

いや…手を握ってもらったのは棚ぼたかも知れないけれど、何せその時の私はそれどころじゃ無かったし、何なら記憶も朧げ。

格好悪いところ晒して、恥しか感じない。

先日の【踊ってみた】が本人に届いてしまうこと然り、推しに関連してのサプライズが多過ぎる。

心臓に悪い、本当に。

ただ運が良いって訳じゃ無い…偶然の重なりが少しばかり怖さを呼んだ。