濁す ページ16
≫�盒� side
「……ただ、未練無いってわけでは無かったり」
ぽつ、と小さなトーンで呟かれて、聞き溢しそうになった俺は「え？」と反射的に聞き返していた。
「あ…何でも無いです、独り言！」
相手に伝えるためと言うよりも、思わず溢れたんだろうその言葉。
何か重要な部分がその言葉に乗せられている気がして、“何でも無い”と言われれば益々気になってしまう。
掘り下げていいのなら、と更に訊ねようとしたその時だった。
「あ、友人公園の前着いたみたいです」
タイミングが良いのか悪いのか、待っていた友人から“到着した”とメッセージが来たらしい。
社会人さんは手に握るスマートフォンの画面に視線を落とす。
「すみませんでした、ここまで付き合わせてしまって…これで私、行きますね！」
腰を下ろしていたベンチから立ち上がって公園の出入り口を指差す彼女。
なんか…上手い事はぐらかされた感も否定出来ないような。
見送ろうと一緒に公園出入り口まで歩みを進めて、もう一度俺は彼女に向き合った。
「あの…助けて頂いて本当に本当に、ありがとうございました」
改めてお礼の言葉を述べて深く頭を下げる社会人さん。
気がつけば話し込んでいたけど、そもそもこの人、不審者に遭遇していた。
月並みだけど、俺はその事に関して声を掛ける。
「変な奴、気を付けてくださいね」
「ああ…はい、ご心配ありがとうございます」
「…お話し出来てよかったっす」
「いえ…こちらこそ」
多分、“また今度”は無い。
これきりになると思うからこその他人行儀のやり取り。
また変な人に遭遇したりしなきゃいいけど…大丈夫かな。
出会いが出会いなだけに、余計に何となく彼女に対して心配の心を寄せてしまうのは、お人好し過ぎ…？
じゃ、とヒラリ右の掌を彼女に向けて、軽く右に左に振ってみせる。
そうすると、同じように社会人さんもこちらに自身の右掌を向けてみせた。
「…そちらもどうか、お気を付けて…“�盒兇気鵝鼻�
俺の名前を口にする彼女。
…ん？
あれ、俺…名乗ったっけ？
教えたっけ…？
突然の事に驚いて何も言えず、友人の車に乗り込んで走り去っていく彼女の姿とその車を、ただ茫然と見つめた。
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作者名：千草 | 作成日時：2023年10月27日 12時
